保険業界では補償額が数百億ドルにも!?
AI時代のリスクと教訓
今後、クラウドストライクはさまざまな問題に対応しなければならない。まず、障害発生に伴う被害への対応が求められている。今回、エアライン各社のシステム障害に関して、ピート・ブティジェッジ米運輸長官は「フライトが欠航し新たな予約を行わない場合、顧客は速やかに返金を受ける権利を有する」と述べている。
恐らく、航空各社は顧客への返金負担を、システムを提供した企業に請求することになるだろう。他の業界でも顧客への賠償や逸失利益の補償を巡り、システム企業に対する請求が増える可能性は高い。
一方、保険業界では、システム障害に対する補償額が数百億ドル(数兆円規模)に達する恐れがあるとの警戒が高まっている。企業が加入するサイバー保険の中には、サイバー攻撃による被害はカバーするものの、システム障害は対象外の契約もあるという。
想定外の事象が起きたため、多くの企業は予想していなかった(保険の対象外の)被害に直面した可能性もある。そのため、システム提供企業の賠償負担はかなりの額になると予想される。
他方、今回の問題は、私たちに重要な教訓を残した。クラウド・コンピューティングやAI分野の成長は急速である一方、世界全体でAIやセキュリティーなどIT先端分野の人材が不足している。今後もAI分野の成長は加速するだろう。それに伴い、世界的にソフトウエア配信などに起因するシステム障害の発生リスクも高まっているといえる。
わが国の企業は、そうしたリスクにどこまで的確に対応できるだろうか。今回の大規模障害から改めて学べることは、「リスク管理の体制が十分ではないまま商品を社会に提供してはならない」という点だろう。企業は想定し得るリスクをつまびらかにし、万全の対応策を整備する。その上で、安心・安全、持続可能性の高い形で商品を社会に提供することが求められる。
製造業、非製造業にかかわらず、企業は自社のリスク管理体制が万全であるか否かを常に検証し、社会の公器として安心できるサービスの提供を目指すべきだ。