29年ぶりの値上げに
JR九州が踏み切ったワケ

 実際、JR発足から約10年が経過した1996年に、経営環境の厳しいJR北海道、JR四国、JR九州の「三島会社」は民営化後初(消費税導入に伴うものは除く)の運賃値上げを行っている。バブル崩壊後の輸送需要・営業収入の伸び悩みと、低金利の影響で各社の経営を支える「経営安定基金」の運用益が減少したことで、安定した経営を維持することが困難になったためだ。

 JR九州は1994年度、民営化後初となる4億円の経常損失を計上していたが、この運賃改定で普通運賃平均8.5%、定期券平均13.1%の値上げを実施。それ以降はコロナ禍まで経常黒字を維持してきた。

 にもかかわらず、今回、29年ぶりの運賃改定に踏み切ったのは、ひとつは言うまでもなくコロナの影響だ。JR九州は申請の背景を「高速道路網の発達や全国平均を上回る九州地区の人口減少・高齢化に加え、新しい生活様式の定着に伴うご利用のさらなる減少により、輸送需要はコロナ禍前の水準に戻らないと見込んでいます」と説明している。

 その上で「コロナ禍前から、固定費の削減や生産性向上に努めてきましたが、昨今の電気料金や物価の高騰による経費の増加もあり、厳しい経営状況が継続する見込み」として、「安全やサービスの維持向上、老朽化した車両・設備の更新や長寿命化、激甚化する災害やカーボンニュートラル等に対応する設備投資や修繕等に必要な資金を安定的に確保」また「働き手を安定的に確保すべく、待遇や職場環境の改善を図る」必要があるとしている。

 運賃改定はJR九州だけの問題ではない。たとえば当連載の2022年9月5日「JR四国が『27年ぶりの運賃値上げ』を申請、JR各社に波及し得る事情」で取り上げたように、JR四国は2023年5月20日に運賃・料金を平均12.8%値上げしている。

 長らく経営危機に沈むJR北海道は、コロナ前の2019年5月に「安全投資と修繕に関する費用を確保」するためとして、普通運賃で平均13.6%(同時に行われた消費税率引き上げ分は除く)、旅客運輸収入全体で9.1%(同)の運賃改定を申請し、同年10月に実施した。同社にとっては前述の通り、1996年に次ぐ2度目の運賃値上げだった。

 しかし、その後のコロナ禍などの経営環境の変化を受け、同社は今年6月28日、「物価高騰への対応、人材の確保、輸送サービスの維持・競争力の確保のため」に再度の運賃改定を申請した。実施予定日は来年4月1日とした。今度は旅客運輸収入全体で7.6%の値上げとなり、特に通勤定期券は平均22.5%の大幅な値上げを要望している。