「ダメな銀行!もういいわ」
新紙幣を手にできず怒る人たち
銀行では今回の新紙幣を「F号券」、通称「F券」と呼ぶ。戦後から今日まで発行してきた紙幣は、A、B、C、D、Eと5券あり、今回の「F号券」が6番目になる。ちなみに1946年に発行を開始した「A券」の百円紙幣も、現行紙幣と同様に扱われる。銀行窓口に持ち込めば、口座に百円が入金される。今でも「年末の大掃除でタンスや仏壇から大量の百円札が出てきた」と、窓口に持ち込むお客もいる。
そして迎えた7月3日の開店前。私が勤務するみなとみらい支店前には20人ほどの行列ができており、ほとんどが高齢者だった。偶数月の15日は年金支給日で、ATMコーナーではよく見る光景なのだが、その日は違う。
テレビのニュースなどで報じられた通り、国立印刷局で発行された新紙幣は、発行日と呼ばれる7月3日水曜日の午前8時に、日本銀行各支店から各銀行の本店に出荷された。そのため、各銀行の本店から各支店に輸送される物流の事情によっては、7月3日に新紙幣での引き出しや両替が間に合う支店と、間に合わない支店に分かれる。
私の支店へは、7月4日の午前中に届くことがあらかじめ知らされていた。したがって、預金担当課の責任者である私の判断で、7月5日午前9時の開店から新紙幣の取り扱いを始めることになっていた。
こうした判断は、各支店の裁量に任されている。というのも、7月4日の午前中に新紙幣が届いても、その日のうちに対応できる支店もあれば、できない支店もある。人員にゆとりがある大型店なら可能でも、ギリギリの人員で回している小型店では難しいのだ。悪い言い方をすれば、新紙幣への対応は余計な業務に他ならないからだ。
開店のシャッターが開くと同時に、同じせりふが飛び交った。
「なぜ新しいお金、用意してないのよ!」
「お客さま、私どもの支店では7月5日から新しいお札に対応いたします。どうかご理解下さい」
「暑い中せっかく来たのに、どういうことなの?何とかしなさいよ」
「前もって、店頭でポスターを掲示してまいりましたが…」
「普段は銀行なんか行かないわよ。電車代払ってわざわざ来たんだから、なんとかしなさいよ!ダメな銀行!もういいわ。本店に電話するから。あなた、名前は…目黒っていうのね。覚えてらっしゃい!」