高額取引や詐欺の横行…
新紙幣発行で誰が得をするのか

 いやはや…全くこちらの話を聞いてもらえない。帰宅すると、ニュースは新紙幣の話題で持ちきりだった。銀行窓口に長時間並んで手に入れた紙幣を、テレビカメラの前に差し出す老人たちの姿が目立つ。

 当日、新しい紙幣に対応していない銀行があったことについて、コメンテーターがしたり顔で嫌みをいう番組もあった。マスコミこそ、正しい情報をしっかり伝えてもらいたいものだ。また、新しい紙幣が発行されると「古い紙幣を持っていてはいけない」などの手口で高齢者を騙す詐欺が横行するが、全くのウソだ。騙されてはいけない。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 入手困難な新紙幣。そんな時に出てしまうのは、メルカリなどのオークションサイトだ。1万円札、5000円札、1000円札の3枚合わせて1万6000円を2万円で取引したり、1000円札1枚を2800円で取引したり。世の中、おかしいんじゃないか。これからいくらでも拝める紙幣なのに、なぜそこまでして発行日に手にしたいのか。

 キャッシュレス化が進むにつれ、新紙幣も使われる場面が減っていくことが容易に想像できる。発行日の7月3日から3週間ほど経過したが、もう両替に並ぶお客の姿はない。あの日、手に入れようと躍起になっていた老人たちは、どうしているだろう。もう、関心すらないのかも知れない。

 こうして預金担当課で窓口の責任者をやっていると、営業担当時代ではなかなか経験できなかったことに遭遇するものだ。ただ、紙幣の改刷だけは、今回限りにしてもらいたい。いったい誰が得をする話なのだろう。疲労感だけが残った。

 この銀行に勤務して四半世紀。疲労感にさいなまれつつも、毎日懸命に勤務してきた。今日も私はこの銀行に感謝しながら、業務に従事している。

(現役行員 目黒冬弥)