歯医者「減少」時代#15Photo:PIXTA

20歳と30歳に対する歯周病検診が2024年4月から始まったが、すでに実施されている40~70歳の受診率はわずか5%。現状の歯科健診では足りないからと「国民皆歯科健診」の整備が検討されているものの、導入されたところで意味はあるのか。特集『歯医者「減少」時代』(全26回)の#15では、歯科医療界の悲願である国民皆歯科健診に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

20・30歳でも始まった歯周病検診
従来の受診率はわずか5%

 20歳と30歳に対する歯周病検診が2024年4月から始まった。市区町村が健康増進法の下で実施する歯周疾患検診はこれまで40歳、50歳、60歳、70歳が対象で、ここに20歳と30歳が加わったのだ。

 高校生までは市区町村や学校が法的義務で歯科健診を行う。しかし大学生から74歳までにおいて、主なものは努力義務の歯周病検診くらい。働く世代は健診の機会が少ない(下表参照)。

 歯周病は抜歯原因のトップで約4割を占め、約3割の虫歯よりも多い(8020推進財団「第2回永久歯の抜歯原因調査」)。では歯周病検診の対象者を拡大すれば歯周病患者が大幅に減るかといえば、期待はあまりできない。歯周病検診の受診率はわずか5%にすぎないからだ。

 米国では、定期検診を受けておかないと保険で治療費がカバーされなかったり、治療費も高かったりするため、検診の受診率が高い。対して日本は、虫歯や歯周病の治療に公的保険が適用されて自己負担が軽い。その点で予防への意識も高まりにくい。

 とりわけ就労世代は忙しくて時間がないし、少なからず「歯科医師が嫌い」という心理も受診行動を遠ざける。子どものときから歯が痛くなって、治療でも痛い目に遭うことを繰り返してきただけに、歯科医院を避けたくなるものだ。

 予防への意識が低く、痛かった経験を持ち、健診や受診を避けて治療が遅れる。大人たちは歯の健康が保てない負のスパイラルに陥りやすい。

 負のスパイラルはこれで終わらない。「口の衰えは体の衰えにつながる」と日本歯科医学会の小林隆太郎副会長。歯周病は糖尿病などの生活習慣病と密接に関連しているし、高齢者の死因に多い誤嚥性肺炎の予防には口腔ケアが重要。歯周病や歯の欠損が認知症を誘発するという研究報告もある。

 そんな中で22年の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に、生涯を通じた歯科健診となる「国民皆歯科健診」の具体的な検討を始める旨が明記された。大人になっても切れ目なく歯科健診を行う制度を整備しようというものだ。

 歯周病検診の受診率が絶望的に低いのに、導入したところで意味はあるのだろうか。