イスラムは人間の心と向き合ってきたか

『イランの地下世界』(若宮總 著、KADOKAWA)『イランの地下世界』(若宮總 著、KADOKAWA)

 とくに、イスラムの内面軽視の傾向は、その「天国」の解釈に顕著であると、レイラさんは考えている。イスラムでは、天国には酒の流れる川があり、美しい処女たちがはべっているとされる。

「天国でお酒を飲んだり、かわいい女の子とセックスしたりできるから、現世ではそれらを我慢しろってわけ? そんな下心をもって生きることを認めちゃってる宗教に、人間の内面を高めることなんてできっこないわ」

 いかがだろうか。もちろん、イラン社会の問題をすべてイスラムのせいにすることはできないはずだ。なぜなら、内面がなおざりにされる軽薄な風潮は、多かれ少なかれ全世界で進行しているし、右へならえ式の画一的な価値観に基づいた競争と序列化も、つい数十年前までこの日本ですら当たり前だったのだから。

 次回は、イランの若者の間に広がる「宗教離れ」と、イランにおいてイスラムが求心力を失いつつある現状について見ていこう。