個人レベルでもアニマルスピリッツの
発揮が求められる時代が来る
――アニマルスピリッツの重要性はよくわかりました。そのアニマルスピリッツを日本社会に根付かせることが次に必要なアクションだと思うのですが、そのためには何が足りないか、どういったことが必要か、お二人の意見を伺えますでしょうか?
徳成 今、スタートアップのお話の中で、安定したサラリーパーソン生活を送るか、自分で起業するなど何か始めるか、という選択が挙がりましたが、私自身は決して二者択一だとは思っていなくて。
朝倉さんの著書『論語と算盤と私』の中でも書かれていましたが、アニマルスピリッツのベースは「人生はネタ集めの旅」といいますか、おもしろいことを追求しようという好奇心ではないかと思うんです。僕自身のアニマルスピリッツもそれに近いところがあって、「何かおもしろいことがあったら追求しよう」と、常々思っているんですね。
だって、どうせ生きている時間には限りがあるわけですから。かくいう私も大きな企業で部長職などに就いていて、別に本なんか書かなくても安定していたわけです。でも「何か自分で書けるかも」とやる気になってしまい、いざ書いてみたら意外に評判がいいものですから、苦しいんだけど書き続けている。
これが私にとってのアニマルスピリッツの発揮の仕方であって、人それぞれどんな形でもいいと思うんですよ。
朝倉 自分がやってみたい、と思うことであれば何でもいい。
徳成 ただし自分が楽しいことでないと駄目だと思います。なぜかというと、これからはおそらくベーシックなことは「ChatGPT」などAIがやってくれる時代が来ます。そうすると人間がやることは何になってくるかというと、多分、一次情報(自分が直接体験をすることで得た情報、もしくはみずからおこなった調査や実験で得た情報)を作るしかなくなってくる。
一次情報があれば、それをAIが分析して二次情報をどんどん作っていけるわけですから。でも一次情報を作ること、つまりすごくクリエイティブなことは人間にしかできない部分がある。
となると、それぞれの人が持っている「自分が楽しい」こと、「自分はこれがおもしろいと思う」こと。誰もがそういうようなことをやってみる、という社会が到来するんじゃないかと期待しているわけです。
とくに日本は人口が減っていて、ますます社会の担い手が少なくなってきますから、広い意味での「機械」でできることはどんどん「機械」にやらせないと回っていかなくなる。そういう時代がすぐそこまで来ていると考えると、これからは言われたことをきっちりやれる人間ではなく、言われていないことをやる人間が評価される時代になる、と思っていまして。
その意味では、アニマルスピリッツは個人のレベルでも発揮する時代になってくるんじゃないかと。一人ひとりが、「楽しいこと」「得意だな」「好きだな」と思うことをやる。これが私が思う、社会全体のアニマルスピリッツを盛り上げていくために必要なアクションの一つです。
朝倉 それはスタートアップの世界のみならず、既存の会社でも求められるものですよね。
徳成 そのとおりで、私がこれまで歩いてきた、ある程度確立された企業や、資産・資本・人材などを持っている企業こそアニマルスピリッツを発揮しないといけない、という危機感は多いに抱いています。
『CFO思考』の中では主に「CFO」という役員クラスを題材に書かせていただきましたが、担当者レベルでも「CFO思考」を発揮して、企業価値や日本経済を活性化させることができると、私は考えています。経理・財務や税務など内部管理の担当者は、「金庫番」的に会社を安全に維持しようと無意識に行動する。それは、正しいことなんだけど、内部管理のブロだからこそ、どこまでリスクが取れるかはわかっている。であれば、「もうちょっとリスクを取ってみよう」とか「こういう前提ならここまでしかリスクを取れないけど、経営者がこの前提を認めてくれるなら、ここまでリスクが取れますよ」とCFOに提言する。それらを受け止めてCFOは会社として取れるリスクのギリギリのところを狙う。それこそがCFOにしかできないことであり、それができるのがCFOとも言えます。
日本の大企業、最近の言葉で言えばJTCですが、その大企業の経理・財務担当役員は、「金庫番思考」を発揮して企業価値の保全を第一義に考えてきた。それはデフレの時代には正しかったかも知れないけど、インフレになるこれからは、財務・経理を始めとする内部管理のプロフェッショナルチームのリーダーとして、企業価値の向上に貢献するようにマインドセットを「CFO思考」に変えるべきだ、と考えています。このことを詳しく書いているのが、今回出版させていただいた本なのです。