これはすごいものだと感じ入る。テレビで落語があれば見逃さないようになり、落語会にも行くように。中学3年生のとき桂吉朝さんに弟子入りを願った。

「これまたラジオで聴いた『時うどん』がもう衝撃的に面白くて。『すごい落語すんねやなあ、この人!』と思いました」

 だが「高校に行け」と諭され、一旦は進学する。高校2年生のときにめでたく入門が叶った。吉朝さんは43歳だった。

「辛抱づよく、ていねいに稽古をつけてくれたなあ……と思いますね。息つぎはここ、音程が違う、イントネーションがおかしいと、細かく教えてくれるんです。『このセリフはここのセリフと対になってるから、変えたらいかん。突っ込みは同じ言葉ばかりだと咄がダレる』なんてことも。よく言われたのは目線で。『お前、今は何を見てんねん、見てるものはどんな大きさやねん。お前に見えてないもの、お客さんは見えへんぞ』って。そんなにして教えてくれてるのに、僕がまあ全然覚えない(笑)。不埒な弟子でした」

似せようと追いかけても
師匠の芸には行き着けない

 鍋の置かれた円卓に向かうように、吉朝さんの写真が置かれてある。座るとちょうど目線の合う高さで。