徳川将軍家の心のよりどころ
ところで、なぜ徳川家がこれほどまでに知恩院の大伽藍を整えることに熱心だったのでしょう。260年余にわたる泰平の世を築いた家康の心のよりどころとして浄土宗の思想があったようです。戦国武将・今川義元の人質として少年から青年期の多感な時代を過ごした家康。
戦いに翻弄され、浄土宗の大樹寺(愛知県岡崎市)の先祖の墓前で自ら死を選ぼうとしたとき、住職の登誉から「厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど)」(穢=けが=れた世から離れ、浄土に生まれることを願う)と説かれ、思いとどまったのだとか。この言葉を自身の旗印とし、阿弥陀如来像を念持仏とし、日々念仏をとなえていたと伝わります。
見どころ満載の知恩院ですが、古くから伝わる「七不思議」を探してみましょう。御影堂正面右手の軒裏に目を凝らすと、折りたたんだ状態の和傘が。これは、七不思議の一つ「忘れ傘」で、建築当時、名工の左甚五郎が魔よけのために置いたなどと伝わるものです。他にも、どこから見ても正面に見える方丈廊下の杉戸絵「三方正面真向の猫」など、思わず誰かに話したくなる、楽しいミステリーが潜んでいますよ。
知恩院でお参りした後は、三門の向かいに立つ和順会館へ。宿坊のほか、軽食やドリンクで一服できるカフェ、おみやげ販売コーナーがあります。お勧めは「忘れ傘」をかたどった最中です。ユニークなネーミングの漬物「念佛漬」「極楽漬」はご飯のお伴にぴったりですよ。