能楽教員たちは銕仙会能楽研修所で「羽衣」の一部を鑑賞した(写真:2013年6月14日銕仙会定期公演「羽衣 彩色之伝」シテ:鵜澤久)
写真提供:鵜澤久 (C)吉越研

 2024年6月17日の夕方、東京・南青山の銕仙会(てっせんかい)能楽研修所で、生まれて初めて能楽の舞台を鑑賞しましたが、想像以上のすばらしさでした。それはまさに教科書を読むだけでは分からない体験でした。「パフォーミング・アーツを見た」というよりは、「芸術的な体験をした」といったほうが正しいかもしれません。まるで現実の世界を超えて、別世界につながるような感覚を覚えました。

 俳優時代に通っていたアクティングスクールの先生がよく「演者の役割は、観客に時間も世代も超える体験や感情を味わってもらうことだ」と言っていましたが、まさに能楽師は私たちを時間も世代も超えるような世界へと導いてくれました。

 銕仙会能楽研修所では、舞台鑑賞だけではなく、能楽の歴史、型などについての解説も聞くことができましたが、私が特に感銘を受けたのは、師匠から弟子へと口伝で芸が受け継がれていくシステムです。何百年もの間、口伝で引き継がれてきた芸や技を現代の観客に作品として提示する――これこそが日本の伝統芸能が唯一無二のものである所以だと思いました。

日本のスタートアップを訪れて
驚いた「3つのこと」

 日本滞在中には14社の企業を視察しましたが、毎回、驚きの連続でした。中でも印象に残っているのが、日本独自のスタートアップ企業の隆盛です。

 6月18日と19日の両日、Mujin、キャディ、チームラボといった日本を代表するスタートアップ企業を視察しましたが、2019年の訪日時との大きな違いは、日本のスタートアップ業界全体の熱気。この5年間でずいぶんと盛り上がってきた印象を受けました。

 これらのスタートアップ企業を訪問して驚いた点が3つあります。