メガバンク・地銀・ネット銀を大解剖 [最新]銀行ランキングPhoto by Yasutaka Nagayoshi

熊本県内の鉄道やバスで、「Suica(スイカ)」などの全国交通系ICカードが廃止される予定だ。この廃止に伴い、虎視眈々と地域通貨構想を練っているのが、県内で圧倒的なシェアを誇る肥後銀行だ。同行の笠原頭取に、「くまモン!Pay」開発に至った背景や、地域通貨として利用してもらうための方策について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

10カード廃止は全国初
肥後銀行は「くまモン!Pay」開発

 今年5月27日、熊本県の鉄道・バス5社が「Suica」や「PASMO」など10種類の全国交通系ICカード(10カード)を年内めどに廃止する方針を発表した。代替となる決済手段として、クレジットカードなどのタッチ決済を25年春に導入する予定だ。28日には熊本市が運営する市電(路面電車)も、26年4月からの10カード廃止の方針を公表した。

 全国交通系ICカードを廃止するのは全国初の事例だ。背景には10カードの機器更新に伴う莫大な費用がある。熊本市の大西一史市長は28日の定例会見で、「更新費用だけに12億円以上かかるということは、一体どういうことなのか。正直に言って、大都市のシステム維持のために地方にこれだけしわ寄せが来るような状況は、果たしていかがなものか」と苦言を呈した。

 せっかくの便利な10カードが使えなくなることに、地元の反発も大きい。地元紙の『熊本日日新聞』が5月30日~6月2日に実施したアンケート調査によれば、廃止に「反対」(どちらかといえばを含む)と回答した人が68.9%に上る一方、「賛成」(同)は14.1%にとどまった。旅行や出張、買い物など、生活に密着した決済手段が廃止されるのだから当然だ。県外から訪れる人が廃止に気付かず、バスの入口付近で立ち往生する可能性もあり、廃止後は交通の混乱も予想される。

 一方、熊本県内のバス・電車で導入されている「くまモンのICカード(熊本地域振興ICカード)」は、10カード廃止後も引き続き使える。この事業を担っているのが、熊本県で圧倒的なシェアを誇る肥後銀行だ(上図参照)。

 その肥後銀行は5月24日、スマートフォンアプリ「くまモン!Pay」の開発に着手したことを公表。バス・電車等の公共交通での利用だけでなく、熊本県内の加盟店や全国展開店での買い物にも利用できるよう開発を進め、25年春にサービスを開始する予定だ。

「くまモンのICカード」事業で年間3億円程度の赤字が続いていた最中、10カードの廃止は肥後銀行にとってまたとないチャンスだ。九州フィナンシャルグループの笠原慶久社長(肥後銀行頭取)も「くまモンのICカードを”県民カード”として、くまモン!Payを"県民Pay”として定着させたい」と意気込む。

 肥後銀行が10カード廃止に合わせて、「くまモン!Pay」の開発を進める理由は何か。そもそも地元住民の反発がある中で、肥後銀行は「くまモン!Pay」をどのように普及させるのか。

 次ページでは、笠原頭取が描く「くまモンのICカード」&「くまモン!Pay」の地域通貨構想と黒字化戦略について、詳しく聞いた。