顧客の高齢化や相続による預金流出、投信関係手数料の減少で、地方銀行の個人資産運用ビジネスが岐路にある。ビジネスモデルだけではなく、行内の営業体制や評価制度次世代の早急な再構築が求められているが、有効な手段はあるのだろうか。連載『メガバンク・地銀・ネット銀を大解剖[最新]銀行ランキング』の本稿では、足元の状況を分析するため地銀82行を対象に「預かり資産純増額ランキング」を作成。それを基に次世代のモデルを探った。(日本資産運用基盤グループ執行役員兼金融機関コンサルティング部門長 直井光太郎)
位置付けが変わる
個人資産運用ビジネス
地方銀行の個人資産運用ビジネスは今、大きな岐路にある。
背景にあるのは、主要顧客の高齢化と相続による預金流出、投信関連手数料の減少、さらにシステム維持費用の高騰だ。環境の厳しさは年々増しており、事業を継続すること自体が難しくなっている地銀も出始めている。実際、島根銀行はSBI証券、大分銀行・阿波銀行・山陰合同銀行・福井銀行は野村證券に、四国銀行は大和証券に、西京銀行や佐賀共栄銀行はアイザワ証券に、投資信託口座を移管した。
一方、中堅規模以上の地銀は、事業効率化と収益性を高めるため、地銀系証券を設立してきた(現在27社)。主に銀行商品ではニーズに応えきれない富裕層を対象に営業してきたが、一昨年に金融庁が仕組み債の販売体制に問題提起して以来、地銀系証券は次々に仕組み債の販売停止に追い込まれ、収益の柱を失った。
新たな顧客を得ようにも、若年・資産形成層はSBI証券や楽天証券といったネット証券に流れ、富裕層も野村證券や大和証券に加えて3メガバンクも取引獲得に参戦しており、地銀の個人資産運用ビジネスの先行きには、既に暗雲が立ち込めていることは明らかだ。
これまでの個人資産運用ビジネスは、「手数料ビジネスの象徴」という位置付けであった。しかし、金利の復活で預金の重要性が高まる中、地銀預金の約70%を占める個人預金という「経営基盤を守る象徴」として位置付けられるだろう。
こうした認識の下で地銀各行は商品起点から顧客起点へのビジネス転換を模索しており、より多くの顧客に受け入れられる質の高い金融サービスが必要不可欠となっている。
次ページでは、地銀の個人資産運用ビジネスの現状を分析するために、2024年度第1四半期決算を基にした「預かり資産純増額ランキング」を作成した。その結果と共に、今後取るべき戦略を考察する。