2024年10月に北朝鮮がロシアに派兵したことが大きな話題となったが、実は、北朝鮮による海外派兵はこれが初めてではない。それどころか、北朝鮮による軍事支援の歴史は深く長いのだ。しかも、単なる外貨獲得のためではない。では、北朝鮮の海外派兵の狙いは何か。特集『総予測2025』の本稿では、北朝鮮の狙いを詳述する。(聖学院大学教授 宮本 悟)
過去50年で53カ国に軍事支援
北朝鮮の海外派兵は歴史が長い
2024年10月に北朝鮮が軍部隊をロシアに派兵したことをウクライナが発表し、韓国や米国、NATO(北大西洋条約機構)が確認した。23年から始まった武器支援に続く、北朝鮮によるロシア軍事支援である。これは北朝鮮が、これから世界がどう動くとみているのかをよく示す事例である。
北朝鮮の対外軍事支援はこれが初めてではない。北朝鮮は、1945~94年の間に53カ国に対して軍事支援を行ったことを公表している。これは世界の4分の1に該当する。ただし、北朝鮮は派兵中に軍部隊の派兵を公表したことがない。軍部隊の作戦行動を敵に察知されないようにするためだと考えられる。
そのため、軍部隊を派兵した詳細が分かっているのは、第2次国共内戦とベトナム戦争、第4次中東戦争のみだが、実際の軍部隊派兵はイラン・イラク戦争やアンゴラ内戦など、広い範囲にわたっている。
北朝鮮による過去の海外派兵はベトナム戦争と第4次中東戦争のみと論じた記事が散見されるが、もちろんこれは大きな誤りである。
最大かつ最初の海外派兵は、45年末から始まった第2次国共内戦における中国共産党の東北民主聯軍(れんぐん)支援であり、総数は6万人くらいと考えられている。ただし、建国前であるため、派兵といっても朝鮮人民軍ではなく、朝鮮人の義勇兵のことである。
さて、ロシアに派兵された軍部隊だが、どういう部隊なのかはまだ不明な点が多い。特殊作戦軍の部隊であるという情報もあるが、未確認である。
山岳地帯や森林での近接戦闘のために訓練された特殊作戦軍は、軽歩兵部隊である元陸軍11軍団を中心に構成され、17年4月15日に初めて対外的に存在が確認された軍の種類である。この部隊を派兵したのであれば、ロシアと北朝鮮はゲリラ戦を想定していることが分かる。
たとえ、自らの国が経済的に厳しくとも、過去50年間で53カ国に軍事支援を行なってきた北朝鮮。果たして、その狙いは何か。次ページでは、過去の海外派兵の歴史を振り返ると共に、金正恩総書記の発言などを通じて明らかにする。