九州電力の八丁原地熱発電所(大分県)九州電力の八丁原地熱発電所(大分県) 出所:九州電力ホームページ

今、地熱発電が再び注目されている。再生可能エネルギーの中でも出力変動の少ない、限られた電源の一つで、今後生成AI(人工知能)普及に伴い急増するデータセンター向けCO2フリー電源としての役割も期待される。実は日本の地熱資源量は世界3位。しかも、日本の重電3社では世界シェア6割を握る。しかし地熱発電には開発リスクが他の再エネに比べて高く、政府の導入目標の実現は絶望的だ。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、地熱発電の開発が抱えるリスクや開発が進む革新的な技術を解説。政府が開発促進へ打った“奥の手”も明らかにする。(エネルギージャーナリスト 宗 敦司)

資源も設備も世界有数の地熱大国ニッポン
データセンターにも適した電源だが…

 最近の生成AI(人工知能)の急速な普及に伴い、大量に電気を消費するデータセンターの整備が重要となってきた。ただ、そのためには大手テック企業などが求める「スクエアなCO2フリー電源」――24時間365日安定供給でき、なおかつCO2フリーである電源を確保することが望ましい。その電源の一つとして、原子力と並ぶ有力候補として挙げられるのが地熱発電だ。

 しかも日本の地熱資源は全体で2730万キロワット(kW)と原発約27基分に匹敵する世界第3位の資源量を誇る。さらに日本の三菱重工業、東芝、富士電機の3社が世界の地熱発電設備の6割を供給、圧倒的なシェアを誇っている。そして現状でも全国各地で地熱発電の開発が進められている。

 現在開発中の地点は次ページの表で紹介するが、それはほんの一部であり、地熱開発の可能性が高くさまざまな段階で調査が行われている地点は、さらに多い。発電開始までこぎ着ければ、他の再生可能エネルギーと異なり安定的に運転される。電力買い取り価格も1万5000kW以上でkW当たり26円、1万5000kW未満で同40円と比較的高いため、動き出せば安定収益源となることなどから、大手企業もその開発に乗り出している。まさに日本は世界有数の地熱大国なのである。

 ところが資源量でも技術面でも世界トップクラスの地熱大国であるにもかかわらず、実際に日本で稼働している地熱発電はわずか60万kWにとどまっている。政府は2030年までに150万kWとする野心的な目標を掲げているが、現在のペースでは達成することは絶望的とされ、データセンター向け電源としての役割も果たすこともできない。なぜか。

 実は日本の地熱開発には、大きなリスクが伴う。まず、発電に適した地下の蒸気だまりを発見することが難しく、多くの投資資金と長い調査期間が必要となる。有望な地熱資源区域の多くは国定公園内にあり、開発の許可を得ることが難しい。加えて、地熱開発区域が温泉地帯と重なることも多く、温泉への影響を懸念して、地域からの開発反対を受けやすいなどのさまざまなリスク要因がある。

 地熱開発は多くの投資資金を確保し、長い開発期間を経てようやく事業開始に至る。しかも地熱資源を掘り当てられなければ事業を中断せざるを得ない極めて投資効率の低い事業なのだ。この開発リスクを減らす手法の一つとして、地熱蒸気がなくても地下の熱源さえあれば発電できる“革新的地熱発電”技術が最近注目を集めている。

 次ページで、東電系や大林組、出光興産などの事業省が全国で進めている主なプロジェクトを示したマップを示すほか、地熱発電の課題や革新的技術開発の状況を解説。また、日本国内での普及に向け動き出した独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の動きも明らかにする。