トリスタンは自分がゲイの男性だとわかっていた。だがよくある反応はこうだった。「なら、結局あなたはストレートの女性ってこと?」と。今日、トランスの権利にまつわる社会の意識や理解はもっと進んでいる。とはいえ一歩ずつ前に進むたびに、新たな敵意の逆風が待っていた。

「もろ刃の剣なんですよ」トリスタンがわたしに説明する。「世間の人が僕たちのことを知れば知るほど、決まってバックラッシュが起きるんです」。彼は自分のクィアな家族の話を本にして出版することで、世間を教育することにひと役買いたいと思った。「ですが人前に出ることで攻撃されたり抵抗に遭ったりします」。すでに長い時間をかけて見知らぬホモフォビックの人たちにLGBTQの権利について教えてきたが、妊娠した腹部を出した自分の写真が拡散されてから経験したことは別次元のものだった。

「以前はたまに知らない人から不快なメッセージが届くだけだったのが、急にネガティブなものが滝のように降ってきたのだ」と回想録に書いている。「携帯の着信音が鳴るたびに一段と悪質なものが届くようになった」。なかには彼を侮辱し、「この地球の忌々しい癌」とか「みっともないサーカスの化け物」などと呼ぶ者もいた。彼の赤ん坊には奇形があるだろうと断言する者もいた。なかには子どもたちをとりあげるよう児童保護局に電話をかけると脅してくる者までいた。

トランスジェンダーの
軍隊への入隊禁止を宣言

 リベラルやLGBTQの活動家もまた、若者の共感が得られるキャンペーンを続けるべきだと強く感じている。そうしないと次世代が、右派の発信する極めて悪質なメッセージの餌食になってしまうだろう。「物事は魔法みたいに偶然起きるのではありません。人びとが変化を求めて行動するから起きるんです」とトリスタンは言う。

「僕たちは受け入れられるため、文化を変えていくため、進歩主義を守るための原動力にならなくてはなりません。のんきになどしていられませんよ。そうしたら負けちゃいますから」

 軍隊が良い例だ。「トランスジェンダーの人は長い間、静かに米軍の任務に就いていました」とトリスタンは言う。「トランスジェンダーの人が兵役に就くことは許されないと発言する大統領が誕生するまで、それが物議をかもす問題になることなどなかったんです」。2017年に前大統領のドナルド・トランプ(当時)が、トランスジェンダーの兵士の入隊を禁止すると宣言した。