海馬は睡眠中に記憶を定着させる働きをしていますが、大脳皮質が行う複雑で高度な活動に比べたら単純なことをしているに過ぎません。
では、睡眠中やリラックス中に大脳皮質のニューロンは何をしているのか?
それこそが、僕たちの掲げている大きなクエスチョン(疑問点)です。
リラックス時はヒト以外も
特有な脳活動をしている
リラックスしているときには、何かに集中しているときには見られない、特異的な脳の活動があることは、1990年代後半から知られています。主にPET(陽電子放射断層撮影)やfMRI(機能的磁気共鳴画像診断)によって脳の活動を調べることで分かってきたことです。
そうした、リラックス時に特有な脳活動のことを「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」といいます。デフォルト・モード・ネットワークの機能や役割については研究が進められている段階で、はっきりしたことはまだ分かっていません。しかし、生きていく上で本質的に必要な働きを担っているのだろうというのが大筋の理解だと思います。人間だけではなく、ヒト以外の霊長類やネコ、げっ歯類でもデフォルト・モード・ネットワークが見られるとのことです。
僕の見立てでは、デフォルト・モード・ネットワークとアイドリング脳はかなり重なりが大きいものだと思います。ただし、それぞれまだよく分かっていないことが多いため、共通点や相違点も解明中というのが正直なところです。
アプローチの仕方は異なっています。デフォルト・モード・ネットワークは観察ベースの研究です。被験者(人間でも人間以外でも)をリラックスもしくは学習状態に置き、そのときの脳活動をPETやfMRIで観察するというものです。
「光遺伝学」の確立で
神経科学の研究が飛躍
一方、僕が行いたいのは、因果関係を含めた研究です。つまり、リラックスしているときに、ある部分のニューロンが活動することを確認するだけではなく、その部分のニューロンを活動させたら、新しい情報処理が行われていると実証することです。
因果関係を含めた研究ができるのは、僕が「光遺伝学」という画期的な手法を使っているからです。記憶の研究でも、アイドリング脳の研究でも、使っています。