光遺伝学とは、特定の発光を感じるニューロンを人工的につくり、そのニューロンを操作する技術のことをいいます。そのようなニューロンをつくる際にニューロンの遺伝子を改変するため、遺伝学という名がついています。どのように改変するかというと、ニューロンの遺伝子の中に、ある種の藻類の遺伝子を入れ込みます。

 藻類では、細胞表面にあるタンパク質が青い光を感知すると、光合成がはじまります。タンパク質がスイッチの役目を果たすわけです。このスイッチをニューロンに取り付ける、というのが光遺伝学のアイデアです。この技術を用いることによって、マウスの記憶を強制的に連合させることもできたわけです。

 たとえば偽記憶をつくるときは青い光に反応してニューロンを活発にさせるタンパク質を、記憶を切り離す実験ではオレンジ色の光に反応してニューロン活動を抑えるタンパク質をという感じで、使い分けています。

 自然科学の研究には、こういった革新的な技術の開発がとても大事です。解くべき謎が見つかっても、技術がないために研究を進められないケースはよくあります。光遺伝学のような新しい技術が開発されることで、研究が進展し、新しい概念が発見されていくのです。

 光遺伝学を開発した第一人者のひとりがアメリカのカール・ダイセロス博士です。光遺伝学が確立されたおかげで、神経科学の研究は飛躍的に進歩しました。その功績により、毎年、ノーベル賞を受賞するのではないかと期待されている人のひとりで、もしダイセロス博士が受賞したら、僕に取材させてほしいというメディアからの「取材待機」依頼がくることもあります。これから先、ダイセロス博士の受賞が現実になる日は近いと信じています。