中国人の注目を集める「3S1K」

 中国新移民の間では、文京区の区立小学校で特に名門として名高い「誠之小学校」「千駄木小学校」「昭和小学校」「窪町小学校」の頭文字を取った通称「3S1K」が有名になっている。これらの学校は、長い歴史と優れた教育実績を持つことで知られ、中国人保護者の間で強い関心を集めている。

 中国では、公立学校でも教育水準に大きな差があり、進学校のあるエリアへ引っ越すことは珍しくない。こうした不動産は「学区房」と呼ばれている。例えば、名門の北京大学や清華大学に子どもを進学させるには、まずはこれらの大学所在地である北京市海淀区の中学・高校に通わせるのが定石となっている。

 近年では、こうした「学区房」の概念を背景に、中国人がイメージ先行で文京区に引っ越してくるケースが急増している。筆者が入手したある「3S1K」の生徒名簿では、転入が相次いだのだろう、ここ1年ほどで中国籍もしくは中国にルーツを持つとみられる生徒が明らかに増加していた。「王○○」「胡○○」「張○○」といった具合だ。現時点で、その割合は1割超。日本名を使用している生徒を含めると、さらに多いと考えられる。

 文京区教育委員会の関係者によれば、文京区の公立小学校における外国籍生徒の数は年々増加しており、2023年には389人から467人へと拡大(約20%増)。とはいえ、区全体の総生徒数に占める割合は約4%に留まる。上記の現状からは、中国人を中心に外国籍生徒が「3S1K」に集中している実態が浮かび上がる。

2018年に文京区に越してきた、ある中国人ママの場合

 2018年に来日した中国人ママの胡さん(仮名)は、夫と相談し、2023年に都外から文京区へ移り住んできた。すべては、「3S1K」の一角を占める、ある小学校へ娘を通わせるためだ。夫が抖音(中国版TikTok)で「3S1K」の名声を知ったのがきっかけだった。

 いずれ娘を日本の国立大学、あるいは中国の清華大学やアメリカの大学に進学させたいと考えており、中学受験も視野に入れている。そのため、最近は娘をSAPIXに通わせる準備を進めている。

「近所に70平米で1億9000万円のタワーマンションがありますが、そこも最近中国人が購入したと噂になっていますよ」と胡さんは話す。ただ、実際に娘を3S1Kに通わせるようになって、ようやく教育内容自体は「(他のエリアの公立小と)そんなに違わない」と気付いたのだという。中国系の不動産仲介会社が文京区ブランドを煽っている一面もありそうだ。