アジアを白人国家の植民地支配から解放する「八紘一宇」など日本なりの「日本の論理」があって、神風特攻や玉砕を命じた日本軍上層部も狂気の独裁者ではなく、彼らなりの「戦争の大義」があった。
肯定をしているわけではなく、国家や民族というものは、どうしても他の国や民族が理解できない考えやロジックに縛られものなのだ。歴史、伝統、愛国心など言い方はさまざまだが、どうしても譲歩できないものがあって、それを守るために戦争が始まっていくのだ。
しかし、西側諸国の価値観はそうではない。国を「善」か「悪」かという単純な見方をして、国際社会で協力して「悪」を叩き潰すのが、民主主義だという考え方だ。
わかりやすいのは、2023年秋に鈴木宗男参議院議員が渡航中止勧告が出されていたロシアに行って要人と会談をしたたことだ。ロシアは国境が接する隣国であり、かねてから交流もあって、日本人もたくさん住んでいる。
こういう事態になったからこそ、邦人の安全確保のためにも、ロシアを交渉のテーブルにつけるためにも、ロシアと積極的に対話すべきという鈴木氏の主張は一理あるのではないか、と以下の記事で訴えたところ、愛国心あふれる皆さんから「あんな国と交渉してなんになる」「日本の情報を流すスパイ行為だろ」とボロカスに叩かれた。西側諸国が「悪」とみなしている独裁国家に接近するとは何事かというわけだ。
先の戦争で自分たちがやられた苦い経験も忘れ、他国を「善悪」でしか割り切れなくなってしまっているというのは恐ろしいことだ。いざ日本が何かしらの戦火に巻き込まれたときに、「悪と交渉する余地などない」と「停戦交渉」ができず、ただただ殺し合いの連鎖にのめり込んでいく恐れがあるからだ。
そんなの夢物語だと思う人もいるだろうが、中国・ロシアという大国と国境を接する日本もウクライナのように領土を奪われる危険性はゼロではない。
属国根性が染み付いているので、「いざとなったら同盟国のアメリカ様がなんとかしてくれるっしょ」と楽観視している人も多いだろう。しかし、今回のトランプ政権の動きを見てもわかるように、アメリカは他国の戦争にクビを突っ込んでカネを費やしたり、自国の若者を死なせたりということを極力避けていく。
しかも、アメリカとしても中国と戦争をする「得」はない。実は2023年にメキシコに抜かれるまで中国はアメリカの最大の貿易国だ。アメリカ国内には540万人の中国系アメリカ人がいて、社会のなかでアメリカ市民として活躍している。アメリカが日本と日本人の利益を守ってくれるというのは「幻想」に過ぎない。
アメリカが「世界の警察」をやめて「集団安全保障」という枠組み自体がビミョーになってきた。日本も自国で中国やロシアと対等に「取引」ができるようになっておかなければ、ウクライナの二の舞になってしまうのではないか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)
