「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」「なんだかチームがワークしていない」「上司が何を考えているのかわからない」……あなたの職場はこんな悩みを抱えていないだろうか。今や多くの職場で“当たり前”となった1on1。ヤフーが実践してきたこの対話手法は、単なる業務報告や評価面談とは異なり、部下の成長を支援し、信頼関係を築くためのものだ。本稿では、2017年に発売されて以降、最も売れ続けている1on1の入門書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔・著)から1on1についてよくある質問に対する一問一答の一部を抜粋・再編集して、1on1が持つ本当の意味と効果を解説し、成功するためのポイントを探る。

部下が言う「特にありません」は職場崩壊の“末期症状”。上司に突き付けられた最後通告とは?Photo: Adobe Stock

Q 部下と1on1の時間をとっても、「大丈夫です」「特に話すことはありません」という答えが毎回返ってきます。

 部下との1on1を定期的に実施しているものの、いざ時間を設けても「特に話すことはありません」と言われてしまうことがほとんどです。何か困っていることはないか聞いても「大丈夫です」と返され、それ以上の話が続きません。

 こちらとしても無理に話題をひねり出すのは不自然ですし、毎回同じような沈黙の時間になると、「この時間、本当に意味があるのか?」と疑問に感じてしまいます。部下自身が話す気がないなら、1on1は機能しないのではないか――そんなふうに思ってしまいます。

A 発言の真意は、あなたに対する「不信感」かもしれません。

 重要なのは、なぜ部下は「特に話すことはありません」と答えたのかです。

 大きく分けると2つの要因があると思います。

 1つは、「あなたは私の話なんて聞きたいと思ってないでしょ」と思っている。つまり信頼感の欠如です。要するに、「話すことがない」のではなく、「あなたには話したくない」という意思表示であることが多い。

 これを防ぐには、前に述べた日頃の観察が必要です。「あなたのことを見ているよ」というメッセージを伝えられていれば、部下はそれに応えてくれます。

 もう1つの要因は、言語化が苦手な部下なのかもしれないということです。

 話をしたくないのではなく、考えていることを言葉にできない。最近いろいろな会社で似たような話を聞きます。

 言語化が苦手な部下への対処法としては、事前にテーマを決めてメモを書いてもらう方法があります。たとえば「今週やって成功したこと」など、1行でもいいからメモを書いてもらう。そのこと自体が本人の振り返りにもなりますし、話題提供ができるいい方法だと思います。

 話すのが苦手な部下との1on1では、話題を3つ用意するのがおすすめです。特に、「勤怠」「観察」「取材」の3つが話を引き出しやすいでしょう。

「勤怠」の話題とは、いつも朝7時半に会社に来ている人が急に9時に出社するようになったり、突然半休が増えたりという、勤務態度の変化についての話です。そんなことがあったら、「最近、朝ちょっと遅いけど大丈夫?」とか「半休が増えているみたいだけど、どうしたの?」と聞いてみる。それがヒントになって部下が話し始めることがあります。

「観察」は、「あのテーマについて話してるとき、すごくいきいきしているよね」というように、普段の働き方についてフィードバックをすること。

 管理職にとって、部下の変化を日頃から観察しておくことは必須のスキルです。

「特に話すことはありません」と言われても、日頃の部下を観察していれば上長の側から「昨日頑張ってたよね」「あの仕事をやってたよね」と水を向けて、対話を広げることが可能です。

 そして「取材」とは、部下の周りの人に話を聞くことです。「明日、Cさんと1on1なんだけど、最近のCさんってどう?」と聞いてみる。すると、「あっ、いいタイミングですよ。実はCさんはね……」と何らかのエピソードが出てくることがあります。

『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話に必要なコミュニケーション技法について体系的かつ実践的に学ぶことができます。

 参考:【だから部下が辞めていく】「部下とのコミュニケーションに自信がある上司」ほど管理職失格の理由、ワースト1

(本稿は、2017年に発売された『ヤフーの1on1』を改訂した『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。ヤフー株式会社(当時)は現在LINEヤフー株式会社に社名を変更しましたが、本文中では刊行当時の「ヤフー」表記としております)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。