そんな不安材料が人々を左右したからか、『心の色』『契り』『待つわ』『夢の途中』『聖母(マドンナ)たちのララバイ』など心の内をえぐり取るような歌が注目された。この年最大のヒット曲『待つわ』は、女子大生2人組のあみんが歌い、届かぬ想いを胸に好きな男性に振り向いてもらえる日まで待つという奥ゆかしさが若い女性を中心に共感を誘った。

「日本歌謡大賞」受賞の岩崎宏美の『聖母たちのララバイ』は、疲れた人々への癒しを与え、岩崎と同期デビューの細川たかしはバラエティー番組、『欽ちゃんのどこまでやるの!』の中で取り上げられることによって、“憂さを晴らして調子よく”のお手拍子ソング、『北酒場』で「日本レコード大賞」。近藤真彦の『ふられてBANZAI』、田原俊彦『君に薔薇薔薇…という感じ』のポップスもそんな意味合いを持った。

 女性アイドルの旗手、松田聖子は『赤いスイートピー』『渚のバルコニー』『小麦色のマーメード』と松任谷由実がペンネーム、“呉田軽穂”で作品を提供するとことごとく大ヒット、聖子の天下をゆるぎないものとした。「ポスト百恵」としてデビューしてわずか3年にして、アイドルからビッグスターに変貌を遂げた。

 聖子の後釜の新たなアイドル作りも始まり、〈伊代はまだ16だから〉と『センチメンタル・ジャーニー』で松本伊代が登場。続いて小泉今日子、石川秀美、早見優、堀ちえみ、そして『スローモーション』『少女A』で中森明菜など、「花の82年組」が大活躍を見せる。

 そんな一方で中島みゆきは『悪女』、サザンオールスターズの『チャコの海岸物語』、Sugar『ウエディング・ベル』といった「ニューミュージック」勢も健闘。

 この時期まではまだ演歌からアイドル、ニューミュージックなどジャンルを超えた歌が『ザ・ベストテン』などの歌謡番組で見られ、それを家族が揃って楽しむという情報文化の共有があったものである。