ただ、トヨタの営業利益予想がトランプ関税を「2カ月分」しか考慮していない点は、別の意味で注目です。というのも、トヨタは自動車業界で最高のインテリジェンス、つまり情報収集能力を持っているからです。
もし逆に為替が動かず、関税も撤廃されたとすれば、自動車各社の今期の見通しはトヨタが想定する▲20%台の営業減益で済むでしょうから、これは自動車各社にとっては朗報です。
さて、そこで日産について考えてみましょう。前期の決算は営業利益が697億円とわずかに黒字でしたが、最終損益は▲6708億円の赤字決算となりました。
日産はトランプ関税の影響について何も対策を講じない場合の今期の影響額が▲4500億円と試算しています。つまり、このままだと営業赤字に陥りますし最終損失も巨額なものとなるでしょう。
経営陣としてはそれを当然避けなければいけません。これが日産の新社長が2万人規模の人員削減と国内外の7つの工場の閉鎖を発表した背景です。
日産の場合は前経営陣が中期計画を実行できなかったことが凋落の大きな要因です。現実問題としてゴーン体制末期で膨らんでしまった過剰な生産キャパシティを縮小することは必須です。新体制では社長もCFOも外国人に交代したことで、おそらく数値計画について前経営陣よりも厳格に実行していくことでしょう。
今回話題になった北九州でのEV電池工場建設計画は、今年1月に福岡県および北九州市と立地協定を結んだばかりで、経産省からも557億円の助成金を受け取る予定だったのです。それをわずか3カ月で撤回することになったのも、新体制でのリストラの影響です。会見では、「当時の経営判断が間違っていた」と明言されました。
ところで日産が計画していたのはコストが低いリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)の生産工場でした。このLFP電池はBYDが搭載していて、従来の電池に比べてコストを3割減らせるといわれていたものです。
BYDが軽自動車を日本市場に投入する中で、サクラやリーフに自前のLFP電池を搭載していくことでそれを迎え撃つ日産の計画も断念せざるを得ない状況に追い込まれた形で、これは今後大きな影響を及ぼしそうです。