マスク氏がトランプ政権から
離反するきっかけとなった大型法案

 マスク氏がトランプ政権から離反する直接的なきっかけとなったのが、「One Big Beautiful Bill Act(1つの大きく美しい法案)」である。

 この法案はトランプ減税の恒久化に加え、化石燃料や内燃機関を中核とする旧来型産業に手厚い支援を行う一方で、EV支援や再生可能エネルギーへの助成を大幅に削減する内容だった。

 マスク氏はこれに強く反発し、「未来産業を切り捨て、過去にすがる愚策だ」と激しく非難した。

 特にEV市場を支えるカーボンクレジット制度の廃止が示唆されたことは、テスラの根幹を揺るがすものであり、「企業存亡の危機」に等しかった。

 実際、テスラの利益の約3割はカーボンクレジット販売によるものであり、補助金や排出権制度の廃止は経営基盤そのものを破壊しかねないものだった。

 これは「今後マスク氏の提言する政策を受け入れない」ことを示し、トランプ大統領はマスク氏に引導を渡すこととなった。

 マスク氏はその直後からこの法案を苛烈(かれつ)に批判した。「過去の産業にばらまきながら、未来の産業を根本的に傷つける」「この法案はアメリカの何百万人もの雇用を破壊し、国家に計り知れない戦略的ダメージを与えるだろう」などと述べた。

 さらに「これは政治的自殺だ」として、法案を丸のみした共和党も批判している。

 マスク氏が政界に舞い戻り、新党設立という恐慌手段に訴えた理由は、自分がゼロから育て上げて、売り上げが落ちるのも厭わずトランプ氏を応援しつづけて守ってきたEVの雄テスラが、この法案によって窒息させられそうになっていることに対するカウンターだった。