「途上国で受け入れられるような製品がなぜつくれないのか?」
「なぜ我が社はグローバルなイノベーションを起こせないのか?」
企業がグローバル展開、特に途上国を中心としたBOP市場で生き残っていくには、イノベーションが欠かせない。しかし、その方法を知っている企業はどのくらいあるだろうか?
いま、途上国で「真のイノベーション」を起こす方法を知っている、あるNPOが注目を集めている。その名は、コペルニク(Kopernik)。国連、世界銀行、マサチューセッツ工科大学(MIT)だけでなく、パナソニックなどの伝統的なモノづくり企業から協業のオファーが殺到しているグローバルな組織だ。
コペルニク共同創設者で、初の著書『世界を巻き込む。』を上梓したばかりの中村俊裕氏に、日本企業がグローバルに成功するためのエッセンスを聞いていく連載の第3回となる今回は、これから途上国でイノベーションを起こしていくうえでは必須だという「企業とNPOの協業」について話を聞いた。「ハイブリッド・バリュー・チェーン」「シリコンバレー化する世界」など、ヒントになるキーワドは必見。(構成:廣畑達也)
ハイブリッド・バリュー・チェーン
――企業とNPOの連携に秘められた可能性
――コペルニクの大きな特徴として、国連やパナソニックなど、さまざまなプレイヤーと一緒にプロジェクトを進めている、という点が挙げられます。
米国NPOコペルニク 共同創設者兼CEO。
京都大学法学部卒業。英国ロンドン経済政治学院で比較政治学修士号取得。国連研究機関、マッキンゼー東京支社のマネジメントコンサルタントを経て、国連開発計画(UNDP)で、東ティモールやシエラレオネなどで途上国の開発支援業務に従事。アメリカ、スイスでの国連本部業務も経験し、ソマリア、ネパール、スリランカなど紛争国を主にカバーしていた。
2009年、国連在職中に米国でNPO法人コペルニクを設立。アジアやアフリカをはじめとする途上国の、援助の手すら届きにくい最貧層が暮らす地域(ラストマイル)へ、現地のニーズに即したシンプルなテクノロジーを使った製品・サービスを提供する活動を行い、貧困層の経済的自立を支援している。
2010年、2011年には、クリントン元米大統領が主催するクリントン・グローバル・イニシアティブで登壇。2011年にはテック・クランチが主催する「クランチーズ」で表彰。2012年、世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出された。また、テレビ東京系の「ガイアの夜明け」やNHKなどメディアへの露出も増加している。現在は大阪大学大学院国際公共政策研究科招聘准教授も務め、マサチューセッツ工科大学(MIT)、コロンビア大学、シンガポール大学、オックスフォード大学、東大、京大など世界の大学で講演も行っている。
中村 古巣の国連から声をかけてもらったときは、非常に感慨深かったですね。ほかにも国際機関だと世界銀行、大学だとMIT(マサチューセッツ工科大学)や慶応大学、企業ではパナソニックやベネッセとも一緒にプロジェクトを進めています。もちろん、途上国の現地団体や実際のユーザーとのつながりも非常に重要です。
――そうした多様な組織との連携は、どんなメリットがあるのでしょう?
中村 イノベーションが加速していく、ということが挙げられます。もはやイノベーションの担い手は、企業だけに限られるものではありません。
政府、大学、NPO、一般市民などのプレイヤーがそれぞれの役割を果たし、そしてこれらの担い手を有機的につなげていくことが、これからの世界でイノベーションを起こしていくためのカギになると僕は思っています。
「ハイブリッド・バリュー・チェーン」という言葉を知っていますか?
――ハイブリッド・バリュー……?
中村 舌をかみそうな表現ですよね(笑)。ですがこれは、社会起業家を支援するアショカが2003年に支援しはじめた、「途上国の問題解決の1つのアプローチとしての、企業とNPOのパートナーシップ」を指しています。
――NPOと組むことでイノベーションが……? 営利と非営利が手を組むというのは、コペルニクの活動にとっても重要だと聞きましたが、中村さんご自身の実感としてそう感じてらっしゃるのでしょうか?
中村 そのとおりです。