――非常にジャーナリスティックに冷静に分析されているんですね…新政さんは今後どうするんですか(笑)。

 今のところは、名門酒会さんといい関係を続けながら、よりこだわりの強い酒は限定的な販路で提供していきながら、考えていきたいです。卸を使おうが使うまいが、自分の商品がどういうふうに売られていて、理想的なかたちでお客様に届けられているのか分かっていることが最低限必要だと考えています。

パチンコやハリウッド映画より
日本酒が魅力的になればいい

――海外売上げを増やしていきたい、ともお考えですか?

 業界として、海外の需要を開拓する必要は絶対あると思います。国内の需要は細っていくわけだし、産業たるもの地域に貢献するには外貨を持ってこられるようにしないといけないですよね。

 ただし、「国内の日本酒市場は小さくなる」と言ったとき、市場がこれしかないと思い込むとシェア争いになって地獄ですけど、発想を変えれば、市場は無限にあると思うのです。たとえば日本酒がパチンコより魅力的になればいいし、ハリウッド映画よりいい文化体験ができて人びとの楽しみとして認めてもらえれば、「日本酒市場」の行く末とは別次元の話ですよね。いい車買うより、いい日本酒を飲んだほうが余程いいぜ、と思う人が出てくれば、100万円の日本酒が売れる可能性だってあるんです。

 まず、「量」ありきでない、とは思っています。なにしろ、僕が蔵に帰ってきたころの規模が、5500石で売上高6億円ぐらいと申し上げましたが、ボルドー1級の有名銘柄なら、同じ石数で200億円以上の売り上げと聞いたことがあります。

 つまり、単に量を追うのでなく、世界的なブランドを持つ欧州の企業のように、コスト感覚にとらわれすぎず、可能な限り手間ひまをかけて高い付加価値をつけ、お客様により深い精神的喜びを得ていただける恰好にしていくべきではないでしょうか。

――確かに、日本酒はストーリーに事欠かない文化ですから、他の分野であっても“こだわる”ファンに受け入れられやすそうです。

 文化だから、相互に人が行き交うはずじゃないですか。漫画やアニメにハマっていた人や、カードやフィギュアを集めていた人が、日本酒をコレクションする可能性は大きい。だから、クロスオーバーな文化をもってきて、こっちのほうも面白いよ、とアピールしていけばいいと思います。他の文化と競合しながら、いいところをもらうという経験が日本酒はあまりなかったために、どうしても市場が閉ざされていて仲間も見つけられなかったことが不幸の原因です。

 だから、酒蔵の経営者は、日本酒市場がどれだけあって、年齢層がこうなって…と深刻に考えるよりも、発想を外に広げていったほうがいい。

 酒蔵に戻った当初は、僕自身、深刻に考えすぎて、かえっていろいろなミスをしたり、社内でもピリピリして、現場の雰囲気が悪くなったりもしたんですね。キャッシュの流出が激しかったので、このままじゃ身ぐるみはがされる、という恐怖感もありましたし。冷静に考えると、金融機関との長年の付き合いで金を借りていた部分もあったと思うので、自分の思考が負の方向にいきすぎなければ、対応策も考えようだったのでしょうけど。