「ビジネス」と考えた瞬間に
妥協が生まれ会社が小さくまとまる

――「深刻に考えすぎると、ロクなことがない」と発想が変わったきっかけがあったのですか?

 端的に言うと、3年目ぐらいから身体がもたなくなってきました(笑)。勢いがあったから、一気にいろいろな酒も出せたのでしょうが、キャッシュの流出がとまって一服して、酒造りで目標としてきた4つの課題克服のメドもだいたい見えてきたころ、これからどうするのか、と考えました。

「ビジネスというよりサービスと言ったほうがしっくりくる」という佐藤社長。次にチャレンジしたいのは、なんと「農業」。

 昔は、偉大な経営者が「社会のために」と理念を語っている本など読むと、弱肉強食の世の中で何を青臭いことを言っているんだと全然腑に落ちなかったのですが、逆にああでないと会社は伸びないんだと今は思います。

 「ビジネス」というより「サービス」と言ったほうがしっくりくる、というのでしょうか。「自分の利益のため」と考えると、僕ら団塊ジュニア世代は恵まれて育ったぶん、欲がないから続きません。危機を乗り越えてしまったら、ビジネスとして利益を追い求めようとしても、すでに燃え尽きていて小さくまとまってしまいそうになった。利益を求めた途端に、逆に利益を生めなくなるというパラドクスにはまってしまうのではないでしょうか。

――それが「社会のため」と思うと、自然と継続性や意欲が出てきたんですね。

 自分のために働くと、満足した時点で会社は終わってしまいます。頭のなかでは、会社は大きいほうが社員の給与も上げられるし、利益率も高いにこしたことはないと理解しても、「ビジネス」と思った瞬間に、妥協がうまれる気がするんです。一方、「サービス」は他人や社会に尽くすことだから、永遠で終わりがない取り組みです。時には損をしてもやらねばならないことも多いですし、より長期的で透徹した視野を持つことが要請されます。「サービス」の意識を大事にすることでこそ、家業を永続させることができると確信しています。「サービス」であれば、損得を離れた純粋な気持ちで仕事ができます。人間、他人や社会のために働くときこそ、心安らかでストレスがなく、より才能が発揮できると思うんです。

 不思議なもので、ネガティブな気持ちでいると、将来に向けてポジティブな会社のイメージを持てません。常に苦しんでいる自分のイメージや、怒り狂ってる自分のイメージしかなく、利益を出さなきゃいけない!と追い詰められて将来を考えると、会社が小さくまとまってしまう。酒質を決める点では、いまだに口うるさいと思いますけど、それ以外のところで変にストレスを感じてネガティブでいたくないんです。社員にもストレスがないなかで働いてもらいたいし、そのほうが自分としても新しいアイデアがわいてきますよね。