──仕事本来の目的を考える、という発想は当たり前のようでいて、新鮮に響きます。

岸見 これは上司だけでなく、部下の立場にある人も同じことがいえます。会社組織という対人関係の縮図に揉まれる中で、いつのまにか仕事の目的が「上司に気に入られること」になっている人は多いでしょう。

古賀 「叱られたくない」という気持ちだけではなく、「ほめられたい」「認められたい」という動機で動く人ですね。

岸見 もしも仕事の目的が「上司に気に入られること」だとしたら、どんな仕事も苦痛にしかなりません。常に上司の顔色を窺い、一挙手一投足にビクビクしながら、自分の意見などなにもいえないまま働いているのですから。

古賀 これが承認欲求のむずかしいところですよね。他者から認められれば、自分の価値を実感できる。でも、他者から認められるためには自由なふるまいを制限される。それどころか、常に他者の顔色を窺いながら生きていくことになる。

岸見 ですから、アドラー心理学では承認欲求を否定します。他者から承認される必要などない。たとえ自分に欠点があったとしても、その欠点ごと受け入れる「自己受容」が大切であり、自己受容さえできていれば承認は要らなくなるのです。

小さな「嫌われる勇気」の
先にあるもの

──承認欲求の否定は、『嫌われる勇気』というタイトルにもリンクする話ですね。

古賀 先日ある編集者の方とお話ししていたのですが、いま世に出ている革新的なヒット商品って、ほとんどが「前例がない商品」だったと思うんですね。そして前例がない場合、たとえば社内の企画会議などの場で、それなりの反対に遭うはずなんです。そんなもの誰が使うんだとか、数字の裏付けはあるのかとか、売れなかったら責任が取れるのかとか。

岸見 あるでしょうね。

古賀 もしも仕事の目的が「企画会議を通すこと」だとしたら、ヒットの前例を踏まえた、改良型の商品を出せばいい。さほど反対されることもなく、会議は通るでしょう。でも、本の世界でもそうですが、そうやって二番煎じっぽいものをつくっても大ヒットにはつながらない。過去のミリオンセラーを見ても、どれも大胆すぎるくらいに大胆な、二番煎じじゃない企画ばかりです。

岸見 なるほど。