中西宏明氏Photo by Hideyuki Watanabe

経営者インタビュー「チェンジリーダーの哲学」のトップバッターは経団連の中西宏明会長だ。デジタル技術で社会を変えようと奮闘してきた中西氏だが、6月1日にリンパ腫と診断され、現在、療養中だ。しかし、本編集部インタビューでは、明るく未来を語る“中西節”は健在だった。(聞き手/ダイヤモンド編集部・千本木啓文)

――5月31日で、経団連会長に就任して1年がたちます(インタビューは5月8日に実施)。「終身雇用は限界だ」や「原発を再稼働せよ」などとさまざまな問題を提起したことで、反発を受けました。世論との温度差を感じたのではないでしょうか。

 この1年間、いろいろなことを発言してきました。皆さんに重く受け止めていただいて、経団連はやはり経済界を代表する団体なのだと実感しました。

 最初、「何だ、こいつ」という反応もないわけじゃないですけど(笑)。その後、話していくと前向きに捉えてもらえるというケースも多々あります。

 手応えを得ていると同時に、経団連として経済界をどう代表するのが適切なのかを考えてきました。

 いくらグローバリゼーションに反対したって、経済そのものがグローバルになっていることは事実です。その世界で、日本がしっかりとポジションを取ることが大事なわけです。そのために「経団連としてどうするか」という意味での重みみたいなものを感じてきました。

――終身雇用の限界を感じている人も多いと思いますが、経団連会長の立場で発言するとハレーションが起きますね。

 こちらが当たり前と思っても世の中ではそうじゃなかったり、メディアの書き方で国民の受け取り方も違ったりしますからね。

――そのギャップが徐々に縮まっているということでしょうか。

 正直に言って前向きな話にどんどん持っていきたいのです。

 いままでのメディアなどの論調は、日本経済の「失われた20年」とか「失われた30年」という認識が前提にあって、それをベースに「これが遅れている」「この先どうなっちゃうの」といった、ある意味、後ろ向きの議論が多かった。

 でも、本当にマイナスに捉えなければならない日本の問題は唯一、人口減少だけです。この点に関しては、世界に先駆けて重大な課題を背負い込んでいると言わざるを得ません。

 しかし、それ以外では、日本のポテンシャルは非常に大きいです。人口減少があっても経済を伸ばしていくのは、やってやれない話じゃないですよ。

 生産性を高めて魅力ある国にしていこうという論調を盛り上げたいという思いが私にはあります。

 そういう意味では(世論との認識の)ギャップはずっと埋まらないと思う。

――世論が前向きになったら、さらにポジティブな方向に引っ張っていきたいと。

 そうです。そういう発言を心掛けているし、社会を前向きに変えていけると信じています。

 だからギャップがあることに文句はない。発言直後に(意図がうまく伝わらないことによる)反応があったとしても、共感してもらえるように、いかに話をするかを考えることが重要だと思います。