
坂口孝則
実質賃金はマイナスで、多くの労働者が生活の改善を実感できていない。これには、中小企業の生産性と価格転嫁の問題が潜んでいる。この問題を考える度に「コスト削減は誰でもできるから経営の課題ではない。高く売れるようにすることが経営の仕事だ」という言葉を思い出す。日本はもっと、自社商品をいかに高く売るかを考えなければならない。

エネルギー争奪戦で中国・韓国に買い負ける日本…「バカ正直」戦略で自爆、割高ガスを買うハメに
2021年、政府の意を受けたJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)は、カタールとの年間550万トンにおよぶLNG調達契約を延長せず、打ち切った。以来、日が経つにつれて、化石燃料を再生エネが代替するバラ色の未来は誰の目から見てもあせ始めている。LNGの長期契約を軽視する日本のエネルギー戦略には、再考が必要だろう。本稿は、坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。

イスラエルとガザでの武力衝突による、サプライチェーンへの影響、日本企業の活動にはどんな事態が起き得るのか。「IT人材」と「港湾」に着目し、地上侵攻が始まった場合、イランとエジプトがこの戦争に参加した場合と、段階に分けて考えてみたい。

ジャニーズ問題では「日本と海外の温度差」がある。海外は、性加害を含む人権問題を“過敏なほど”気にしている。“過敏なほど”とあえて書いたのは、恐らく現時点の一般的な日本人は、そう思うからだ。しかし、そうした感覚こそがもはや世界標準とずれている。もはや人権は建前ではなく、実利に直結する。日本人はどうも、この点が疎いと思われる。世界標準に意識を変えないと、赤っ恥もかくし、経済面でも負け越しだ。それは芸能の世界でも、サプライチェーンでも同じことだ。

日本企業の調達における不安定さや買い負けの深層は何か。長年、サプライチェーンのコンサルティングに従事する筆者が、三つの「本当にあった話」から鋭く分析する。

ダイハツ工業の不正でトヨタ自動車の豊田章男会長も謝罪する事態に。いったい何が不正の温床になったというのか。製造業やサプライチェーンに長年、関わる者として、「不正の起こりやすい組織」「不正が起きる時の問題点」について考える。

脱炭素の実現に向けて国も企業も取り組んでいるものの、その実態は…。温室効果ガス排出量の算定に関して、「下請けいじめ」も発生しかねない状況とは?

このところChatGPTが世間の話題をさらっている。今回は、【1】ChatGPTでホワイトカラーは「アイデア格差」へ、ビジネスの目的と手段に逆転現象、【2】ChatGPTをサプライチェーン分野で活用、コンサルが戦略編と実務編を一挙解説、【3】ChatGPTが進化すると人間に残る仕事は「ビールと土下座と経験」になる理由の三本立てでお送りする。

企業間取引には、いわゆる上下関係がある時が多い。製造業でいえば長らく、完成品(やそれに近い製品)を作るための部品や材料を調達する側の企業が“上”で、部材を納品する側が“下”だった。本稿では、調達側と仕入れ先と定義しよう。この関係が今、激変している。

中国や韓国の企業への「制裁」が何かと話題になる昨今。中国の通信機器大手ファーウェイ(HUAWEI)の最新動向とその行方を、調達・購買コンサルタントが考察します。

半導体世界大手TSMCが熊本県に工場建設することで、九州が「シリコンアイランド」に復活しようとしている。TSMCのデータや米国の動きを踏まえながら、改めてその意義を考えてみた。

日本企業の半導体不足はいったい何が原因なのか。半導体関係者の数十人に、日本が「買い負け」した理由について質問してきた。話を聞けば聞くほど、単純な理由に集約できた。かつその理由は、日本企業が抱える慢性的な課題というか、克服し難い理由のように思われた。

一倉定という経営コンサルタントを知っているだろうか。亡くなって20年以上が経過するが、その語り口は今聞いても圧倒される。彼が社長を専門に経営を説く姿は、まるで何かと闘っているようだ。一倉氏の教えは何か。何にいら立ち、日本企業の何を変えようとしたのだろうか。

日本企業に前例のない難題が降りかかっている。これまでサプライチェーンでは「QCD(品質・コスト・納期)」が合言葉だった。しかし、台湾有事の可能性が高まっていることで、「中国から全く調達できなくなるかもしれない」と仮定を立て、代替を考えざるを得なくなっている。コスト最適だけを狙うのではなく、時代にあった最適解を探るにはどうすればいいのだろうか。

円安が進行し1ドル160円台も不安視される今、ビジネス現場で最も必要なリスクマネジメントとは?実際のビジネスでは、使用通貨が複数あるケースも多く、さらにエリアごとの輸出入で使用している通貨が異なる。円安だ、為替影響は?といっても話は複雑で、一筋縄ではいかないのが現状だ。超円安時代の新たなリスクマネジメント法を、サプライチェーンの専門家が提唱する。

ダイキン工業は2023年度中に中国製部材がなくてもエアコンを生産できるようにサプライチェーンを再構築するという。加えて、半導体を自社設計・開発する方針で、コストをかけてでも中国リスクや他社依存リスクを排除しようと努めている。他方、日本企業の多くは経営陣と調達部門で「不毛な押し問答」を繰り広げがちだ。台湾有事が現実味を増す中、調達のリスクヘッジ策でよくある問題点は何か。「中途半端にやることこそ有害だ」と筆者は警報を鳴らす。

中国は7月から8月下旬現在、記録的な猛暑に襲われ、降水量も例年を下回っている。四川省では、干ばつで水力発電が機能せず停電が相次いでいる。四川省にあるトヨタ自動車や電気自動車用バッテリー世界最大手CATLは生産を停止せざるを得なかった。パナソニックやデンソーなども影響を受けた。また、米テスラは「四川省にあるサプライヤーが稼働停止してしまえば、自社工場も稼働停止せざるを得ない」という理由から、サプライヤーへの電力供給を継続できないか当局と交渉していたもよう。中国の熱波と電力不足の終わりがまだ見えないため、総括するには時期尚早だ。ただ、あえて述べるとすれば、次のような教訓が考えられるだろう。

半導体の需要はやや減少し、各社とも在庫調整の時期に入りつつある。と、ここまでは半導体の需給サイクルとして歴史的に繰り返されてきたことだ。新たに異なることとして、それでもなお台湾TSMCだけは好調な決算を提示し、さらに今期も成長を続けるだろう。世界がTSMC依存に陥っていることは、日本企業だけではなく、世界中の企業が隠れたリスクとして抱えている。

アベノミクスなる政策が終わりに近づき、日本で金利が上がり、日本銀行が国債を買い続けることを改めたら…コロナ禍であっても20年と21年の企業倒産件数は減少傾向にあった。しかし、22年は違うかもしれない。これから融資の支払期限を迎える中小零細企業は多い。金利が上がると、会社の血流たる資金を低金利で循環しながらなんとか活動していた中小零細企業が苦境に陥り、倒産する可能性は無視できない。

近年の日本は豪雨が多発している。「平成最悪の水害」といわれた平成30年の西日本豪雨は、自動車メーカーと自動車部品メーカーが集まる中部地方に甚大な影響を及ぼし、各工場が稼働を停止したり、物流が滞ったりした。そこで今回は、取引先の災害リスクまでも考慮したBCP(事業継続計画)を構築する具体的な方法を思案していきたい。最後には、サプライチェーン関係者や経営幹部が絶対読むべき、世界銀行が日本の気候変動リスクを分析したリポートも紹介する。
