財務データ以外に企業の倒産を予測するヒントはないのか――。AI(人工知能)を活用して倒産予知を試みる手法が注目を浴びている。AIは企業のどこに目を付けるのか。
危ない企業を見分ける手法の“基本”は財務分析だ。ただ、財務データ(定量情報)を追うだけでは、企業の断片的な側面しか観察できない。
そこで、非財務データ(定性情報)も踏まえた経営分析が可能なAI(人工知能)を活用した倒産予知が注目を集めている。
その第一人者が、『AI技術による倒産予知モデル×企業格付け』(税務経理協会、2019年)の著者である白田佳子氏だ。AIを駆使し、定量情報と定性情報の両面を踏まえて、倒産した企業と継続している企業の特徴をあぶり出す取り組みを続けている。
定性情報を用いた企業評価には、アナリストのコメントや企業のニュースリリースを分析する先行事例がある。ただ、発信者の個性や意図に左右されることもあり、安定的な分析には不向きだった。
そこで白田氏は、倒産企業の決算の有価証券報告書(有報)に倒産のヒントが隠れていないか、AIの自然言語処理の「テキストマイニング技術」を使って分析し、頻出表現を調べた。
分析用のデータとして利用したのは、1999~05年に倒産した上場企業90社の有報である。これを05年時点の継続企業90社のものと比較した。
近年は上場企業の倒産が少なく、日本経済の影響による表現が増えると分析に適さないことなどから、経済安定期のこの期間の倒産企業を選んだという。
分析の結果、「配当政策」に、決め手となるキーワードが集約されていることが見えてきた。倒産企業では、キーワードとセットで使われる単語に特徴があったのだ。
倒産企業では、「配当金」が含まれる文章に、「無配」「遺憾だ」「見送る」「厳しい」といった表現が頻出。一方、継続企業では、株数や金額といった数字を使う表現がセットでよく使われていた。
また、「内部留保」が含まれる文章を見ていくと、倒産企業では「基本」「充実する」「利益還元」といった単語がよく現れる一方で、継続企業では「設備投資」「新規事業」などの表現が多かった。
つまり倒産企業は財務状況が悪化しているため、配当について「無配」である事実を伝えつつ、その直前に枕ことばとして「誠に遺憾」という表現を用いる傾向にあることが判明したのだ。
表中の略号・記号の見方は次ページの図参照 拡大画像表示