どうせやるなら人材ビジネスの世界No.1にPhoto by Nanako Ito

現在、リクルートホールディングスの売上高の約46%が海外事業であるのをご存じだろうか。米Indeedや米Grassdoorなど大型買収を重ねた結果、サービス展開国数は60カ国を超えた。世界に打って出た同社の次の一手とは。峰岸真澄・リクルートホールディングス代表取締役社長兼CEOに世界戦略を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 相馬留美)

成長のドライバーは
Indeedのプラットフォーム

――国内では業務支援に力を入れる一方で、海外では米国の転職情報サイト「Indeed」や求人口コミサイト「Grassdoor」など、1000億円規模の買収を次々に行っています。海外では資本参加して拡大するという成長戦略を描いているのですか。

 2012年に社長になったのですが、最初のアジェンダというのは、グローバルか国内かという選択でした。もともとは国内の人材派遣会社、今でいうメディア&ソリューションが基盤だったんですよ。海外の売上比率は3.7%くらいしかなかった。

 国内では主要な領域は全てナンバーワンのポジションでしたから、もっと強いナンバーワンになるのか、それとも海外に打って出るのかというクリティカルな論点でした。社長就任前の10年ごろからこの議論はしていたのですが、どうせ海外に出るんだったら中途半端にではなく、われわれのオリジンである人材ビジネスの世界ナンバーワンになるぞと決めました。

 自前で進出するかM&A(企業の合併・買収)をするかについては、2000年初頭に中国に進出したときの反省がありました。商習慣も分からないし、日本のビジネスモデルとマネジメントをそのまま持っていってもうまくいかなかった。ですので、M&Aにしました。

 M&Aをするに当たり、買った会社を私たちが良くできるとしたら、なぜ良くすることができるのかについて徹底的に議論しました。これが「競争力」になると考えたからです。

 インターネットビジネスはというと、当社のユーザーはグローバルではないけれど、全体の売上高は高いという特徴があります。われわれの売り上げとは、取引先にとっては販促費、つまりコストです。そのコストをわれわれがリプレースする(置き換える)ことで、先方のコストも減るという構造を作る、そういうメカニズムも含めて売り上げが上がっている。ということは、この「メカニズムを作る力」がうちにはあるのかもしれないと。

 そして、人材派遣ビジネスの方は国内でもずっと買収をやってきて、利益率、正確にはEBITDAマージン(EBITDA÷売上高)が(リクルートが買収した場合)良くなるんですね。こうした収益率が上がるモデルがうちにはあるのかもしれない、と考えました。

 実際にM&Aをするとなると、インターネットのプレーヤーの場合、“Winner takes all.”、どんどん淘汰されて、強い者だけが残っていきます。M&Aをする場合、いいプレーヤーほど「お金は要らない」と言うんです。お金じゃなくて、強力な事業パートナーかどうかを見ている。だから、われわれの収益率を上げる力とメカニズムを作る力が、相手にとってプラスかどうかが決め手になります。

 そして、スピード勝負。いいプレーヤーは売却のタイミングが来たらすごく速い意思決定が必要なんです。Indeedのときは、デューデリジェンスから数週間~1カ月くらいだったかな。見極めが大事ですね。

 一方、人材派遣は労働集約的な産業です。派遣産業の市場って、世界で40兆円ぐらいあるんです。でも、トップ3でも売上高が3兆円くらいなので、乱立状態なんです。これは労働集約的だからであり、“Winner takes all.”の考え方と全く違う。こちらは収益率を上げるノウハウの再現が重要と考えました。ですので、時間をかけて小さい買収から始めていくことにしました。

 まず、米国で小さな会社を数十億円くらいで買収して、われわれのノウハウでやってみたら収益率が1年でぐっと上がった。これは「できるな」と思い、米国で2社立て続けに、200億~300億円規模の買収をして、これもうまくいった。次はエリアをオーストラリアに変え、上場企業を買収。これもうまくいったので、16年にヨーロッパの上場企業で1800億円以上の買収をしたという経緯です。

――M&Aで注目が集まったのは、Indeedの方でしたね。初めにIndeedを買いたいという提案が上がってきたときはどういう反応をしたのですか。

「何だ、その会社は」と(笑)。まだあまり知られていない会社だったので。当時、われわれは「人材ビジネスのナンバーワン企業になる」とアナウンスしていたので、世界中の人材ビジネスのプレーヤーを探して交渉していたのですが、そのときに数社あった候補のうちの一社でした。

 実はその数社の中には、古いビジネスモデルだけれども、うちが買収すれば間接コストの削減や、削減による相当なリターンを得られるという会社もありました。その会社はIndeedよりもっと安かった。Indeedは04年に創業して、何十億円も赤字を出していた時期があったのに1000億円という買収金額でしたからね(笑)。

――ではなぜIndeedを選んだのですか?

 一番大事なのはビジョンです。うちは1960年の創業以来、収益を高めていくマッチングのメカニズム、つまり個人にとって利便性が高く、法人にとって採用のコストを安くできるメカニズムを日本でずっと探求してきているので、ビジョンがはっきりしています。他方、Indeedのビジョンは“We help people get jobs.”です。人材ビジネスについてリクルートと同じレベルで探求していて、かつ収益を上げるメカニズムに理解が深く、それでいて個人と法人の両方にコミットしようとしている。多くの企業の創業者と会ってきましたが、ビジョンが一致する会社なんて今までなかった。そこで一気にいけたわけです。

――リスクもあったのでは。

 うまくいかないとか、模倣が出る、あるいはほかのインターネットジャイアンツが出てくるとかね。でも懸念していたら切りがないんですよ。

――中国市場に関しては、事業撤退した後どんな展開を進めていますか。

 中国は、インターネットジャイアンツも含めて、どういうふうに対峙していくのかということが一つ。こちらではIndeedではなく、「51Job」という、ナスダックに上場している中国のリクルートのような会社に資本参加していて、ここを中心に今は考えています。

――リクルートは、Indeedというサービスを使って、これから何をしようとしているのですか。

 まずはマッチングプラットフォームの中で、利用者をたくさん増やしていくということが前提です。そして、マッチングの数を増やしていくためには、マッチングのプロセスを効率化することが一番重要だと思っているんです。

 仕事探しで言うと、個人サイドではレジュメ(履歴書)を書いて登録したり、企業に応募したり、面接を設定したりして、採用の合否を知る。企業サイドから見れば、多くのレジュメの収集、それをスクリーニングして、日本以外ならバックグラウンドチェックもあって。これは世界共通の流れなんですが、このプロセスがすごく手間がかかるわけです。それに対してテクノロジーによって効率化できるものはしていく。

 もう一つは、仕事の情報、個人のレジュメ情報、そして個人のクリックの情報、こうしたデータを機械学習によって磨き込んでいく中で、最適な情報が双方に届くような仕組みができていくと思うんですよね。

――その人に合った採用情報が自動で届くというようなことですか?

 まあそういうことなんですけれど……。例えばレジュメデータがあって、そこに書かれている経歴、ポジション、大まかな住所、サラリーの規模、あとはクリックしている情報。これは個人の興味になりますよね。ところで、編集のお仕事って、職種は「編集」だけですか?

――ウェブ編集や雑誌編集とか、いろいろ分かれていますね。

 ですよね。あと、カテゴリーもありますよね。ビジネスメディアなのかファッションメディアなのかで、ジョブの情報も違うわけです。そういうことのマッチングが、ずっとデータで行われていくと、蓄積によってジョブと個人のマッチングの効率も上げていけるというわけです。

――Indeedを傘下に収めたことで資本市場での変化は。

 リクルートには今三つのSBU(Strategic Business Unit、戦略事業単位)があり、人材派遣事業、メディア&ソリューション事業、それにグローバルなインターネットの事業が加わって成長していることが大きなポイントになっています。14年に上場したとき、Indeedの売り上げは400億円程度。ですが去年は3000億円になりましたから、ポテンシャルは大きいわけです。HRテクノロジーSBUの主要企業として成長のドライバーは、Indeedのプラットフォームがベースになっていく。

――先ほどの話で、「個人が本当に欲しいときにピッタリの情報を提供できるようになってくる」という発言がありましたが、みんながIndeedというプラットフォームを利用することで便益を得ることができる仕組みになるということですか?

 マッチングプラットフォームの特性は、企業と個人の利便性を高めて、仕事ができるということ。そのときに、お金の出し手にとって、(利用の判断基準は)コストパフォーマンスが今よりいいか悪いかなんです。既存の求人ビジネスで言えば、日常的には1人当たりの成約コストの戦いになっていく。

 そこでポイントになるのは、“圧倒的に”コストパフォーマンスが高いサービスを提供していけるかどうかということ。われわれの収益構造も良い状態で、テクノロジーを通じて効率が良くなる、あるいは機械学習でマッチングの効率がすごく良くなると、それがプライシングに跳ね返ってきて、より良いコストパフォーマンスを提供しつつわれわれも収益を上げられる。