「あえて『攻める』表現を使う場合、傷つく人がいるかもしれないという想定が必要です。その上で、炎上してもやるという覚悟を持って出したかどうかが問われます。通常のビジネスであれば、想定リスクと想定リターンがありますが、ジェンダー的な話も、リスクが織り込み済みであれば慌てないはずです」(治部氏)

情報発信はターゲット以外の
反応まで想定する

 SNSなどにより、企業の情報発信を想定以外のターゲットが目にするケースも増えている。ワコールの事例など、好ましいかどうかはともかく男性向けの紙媒体であれば、それほど批判されなかった可能性が高い。情報発信はターゲット以外の反応まで想定する必要がある。

 ジェンダーの知識が必要なのは、CMや広報担当者だけではない。メールや社内文書にジェンダー的にNGな表現を使うことで、評価が下がっている可能性もある。単語レベルでいえば、「奥さま」「旦那」「ご主人」などは使わない方が無難だ。

「企業から表現の監修を頼まれたときは、『奥さま』は使わない方がいいですよと伝えます。奥さまの奥は、女は奥に引っ込んでという慣習を言語化したとされているからです。公の文書であれば、『配偶者』の方が無難だと伝えています」(治部氏)

 とはいえ、いきなり考え方を変えるのは難しい。参考になるのが、埼玉県が作成した「男女共同参画の視点から考える表現ガイド」だ。

「埼玉県のガイドラインは炎上しないための基本を押さえています。最初は形からでいいと思います。ビジネスで損をしたくないのであれば、まずはリスク回避の意味で取り組んでほしいと思います」(治部氏)

治部れんげ
ジャーナリスト。国際女性会議WAW!アドバイザー。昭和女子大学研究員。東大情報学環客員研究員。著書に『炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社 1800円+税)など。

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