この問題は、日本ではダイヤモンド・プリンセス号の乗客に対する長期隔離で考えざるを得なくなった。
狭い空間に多くの人が押し込められると、状況によっては、感染者との接触の可能性が高まり、感染しなくてもすむ人が感染する可能性さえある。実際、多数の感染者が出た。
クルーズ船と人口1000万以上の大都市を単純に比較することはできない。しかし、誰なのか特定されていない多数の感染者と共に多くの人が、治療に従事する専門家と施設・設備、互いに必要な距離を取って生活できるための空間や秩序維持の要因などの備えがないまま、閉鎖空間に押し込まれたら、危険が高まると考えるべきだろう。
一方でクルーズ船の場合のように、物理的に「外」と隔離できれば、「外」への拡大は抑えられる可能性は高い(だがそれでも検疫官の感染が確認されたのだから、完全に抑え切るのは難しい)。
しかし武漢市のような陸地の広い領域を完全に隔離するのは、中国のように強権を発動できる国家でも難しいだろう。
囚人のように閉じこめられるのを嫌う人、経済的・家庭的な理由のため、とどまっていられない人が警備の目をかいくぐって、外に逃げ出すようなことがあれば、それらがたとえ少数であっても、隠れた感染ルートが余計に増えてしまうかもしれない。
その意味で、強権を発動しすぎると、逆効果になる可能性がある。
日本での地域の封鎖の問題を考えてみると、そもそも1つの地域を完全に遮断するような措置を取ることは法律的に難しい。
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」によれば、「感染症」が蔓延する恐れがあるときに、都道府県知事には、就業制限や入院の勧告(場合によっては、強制入院)、汚染された建物への立ち入り禁止などを命じる権限が与えられている。
だが、市町長や区を丸ごと閉鎖するような権限は与えられていない。
また、都道府県知事ができることも限られている。
この法律の33条に、「都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、72時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる」とされている。
これは拡大解釈の余地はあるが、この法律による強制措置は最低限のものとされており、かつ、「72時間以内」とされていることから考えて、武漢市の閉鎖のような、戒厳令的な事態は想定されていないと考えるべきだろう。