無意識下で処理される情報3 記号と画像
十字架の画像を見たキリスト教徒は誠実になる

 都市の景観には無数の記号や画像があり、それが人の思考や行動に無意識のうちに影響を与えている。私たちの研究によれば、キリスト教徒を自任する人は、十字架の画像を見るだけでその後、より誠実な行動を取ることがわかっている。自分で見たという記憶がなくてもそうなるのだ。

 ミシガン大学グループ・ダイナミクス研究所の心理学者、マーク・ボールドウィンが1989年に行った実験では、サブリミナルでローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の画像を見たキリスト教徒は、その後、自分を普段より徳の低い人間だと感じるとわかった。キリスト教では普通の人間にはほとんど到達不可能と思えるほどの高い水準の徳が求められていることを思い出すからのようだ。

 そのほかには、アップル社のロゴを見た人は、創造的な思考をするようになる[Fitzsimons et al., 2008, J. Consumer Res.]、あるいは白熱電球が光り出すのを見て創造性が増すという研究結果[Slepian et al., 2010, J. Exp. Soc. Psychol.]もある。

 アップル社のロゴも、光っている白熱電球のイラストも、創造性に結びつけられる機会は多いので、納得のできる研究結果ではある。比喩表現に使われるほど、その関係が深く心に浸透している表れだ。そこまでになれば、見るだけで思考に影響を与える可能性がある。

 同じような連想により、国旗を見るだけで団結心が高まるという効果もある。イスラエル人を対象にした実験では、被験者が左翼でも、右翼でも、サブリミナルでイスラエルの国旗を見たあとは、自分と異なる政治的意見に寛容になる傾向が認められた[Hassin et al., 2007, Proc. Natl. Acad. Sci. USA]。

 アメリカ人を対象に同様の実験をした例もある。アメリカ人の被験者たちを大きなアメリカ国旗の前に座らせたところ、ムスリムに対する態度が好意的になったという結果が得られている[Butz et al., 2007, Pers. Soc. Psychol. Bull.]。

 色、天候、記号や画像のほか、無数の情報が日々、絶えず私たちの思考、感情、行動、決断に驚くほど影響を与えている。何がどう影響するかをよく知っておけば、良い影響は利用し、悪い影響は排除していけるだろう。