「質のいいカカオ豆」の
定義はどのように決まるか
Photo by K.H.
質のいいカカオ豆をつくっていただき、それを正当な価格で買い取る。そのために農家を取り巻く環境を改善し、カカオ豆の生産を安定的なものにして、品質向上を図ります。サステイナブルな状態を構築することが重要です。
――「質のいいカカオ豆」の定義は生産者とどのように共有するのでしょうか?
例えば、現地で生産者の方々と一緒に、カカオ豆に対して何十パターンもの発酵方法をテストします。それを日本に持ち帰り、それぞれチョコレートにしてみます。そのチョコレートを再び現地へ持ち込んで、生産者の方々へフィードバックし、「おいしいカカオって何だろう」を一緒に考えます。
現地で行っている作業にどのような意味があるのか、どういう環境でカカオ豆を発酵させるとそれが再現できるのか、などを知ってもらうために、こうした工程を長年続けています。時間をかけて関係性を構築し、「質のいいカカオ豆」の共通認識をお互い育てていくのです。
日本のチョコレート文化は
まだまだ遅れている
日本のチョコレート文化は欧米と比べるとまだまだ遅れています。「甘いか苦いか」「ミルクかビターか」。多くはこのどちらかです。しかしもっと上のステージへ持っていきたい。ワインやコーヒーのように、チョコレートも産地や品種、発酵方法などの違いを楽しむことができます。このような世界観を日本にも根付かせたい。
例えば「ザ チョコレート」はこうした活動を基につくられたチョコレートです。カカオ豆自体の風味を楽しんでもらうため、このシリーズは香料を使用していません。今現在、4種類を販売していますが、それらの違いは、使用しているカカオ豆だけです。これに発酵とローストを掛け合わせています。カカオ豆の産地は、一つはブラジル産。もう一つはベネズエラ産。これに砂糖のみを足したものと、砂糖とミルクを足したもの。それで4種類です。
実は今の「ザ チョコレート」は2代目です。今の「ザ チョコレート」のカカオ分は70%と51%ですが、初代のカカオ分は61%のチョコレートと59%のチョコレート、この2種類のみでした。ビター系が好きな人、ミルク系が好きな人、どちらへも訴求できるように間をとってこのカカオ分を設定したのですが、中途半端だったのか、消費者に受け入れてもらえませんでした。そこで大幅にリニューアルし、ラインアップをビターバージョン(カカオ分70%)とミルクバージョン(カカオ分51%と54%)としました。すると、品切れになるほど売れ行きが伸びたのです。そのため、一時、休売としました。
――なぜ休売とせざるを得なかったのでしょうか。
メイジ・カカオ・サポートによるカカオ豆は、量はそれほど多くなく、十分なストックもありません。とはいえ、カカオ豆へのこだわりがあるため、他のカカオ豆で代用するというわけにはいかない。そのため次のカカオ豆が届くまで売るのをやめたのです。
カカオ豆の産地を訴求した商品は、1986年の「コラソンカカオ」というチョコレート以来、実はわれわれは8度目のチャレンジです。これまでずっと営業面では振るいませんでしたが、「ザ チョコレート」はようやくヒットしました。健康志向とBean to Bar(本特集#8『チョコ新潮流「Bean to Bar」が100年に1度の市場激変をもたらし得る理由』参照)の流れが後押ししたためです。
――正直、Bean to Barのブームに乗ったのかと思っていました。
よく言われます(笑)。値段も少し高めですが、これでもだいぶ企業努力しています。品質に手間暇かけているので、カカオ豆の量も限られるのです。専門店へ行けばカカオ豆にこだわったおいしいチョコレートを買えますが、専門店へ行ける人、板チョコ1枚に1000円以上かけられる人というのは限られています。消費者は値段が高いチョコレートは頻繁に買いません。始めは興味本位で購入してくれても、徐々にいつものチョコレートに戻っていきます。そうなると小売店の棚に商品を陳列してもらうことが難しく、消費者の目に触れる機会が減ると売り上げも落ちていきます。
――それでもチャレンジし続ける理由は何でしょうか?
明治は日本のチョコレートづくりをリードしてきました。質の高いカカオの価値を日本中に知ってもらい、チョコレート文化を発展させるという使命があります。粘り強くチャレンジし、市場定着させていくことが重要なのです。
Key Visual by Noriyo Shinoda