しかも、消費税率を5%から8%へと引き上げた2014年も、日本経済は未だデフレ脱却に至っていない時期であった。そして、そもそも日本経済を長期のデフレ不況へと陥れる契機となったのは、1997年に実行された消費税率の3%から5%への引き上げであった。しかし、デフレ不況の中でも、消費税率を元に戻すという是正措置は一切なされなかった。それどころか、二度も増税したのである。

 このように、我が国は、不況時の増税という非常識な政策を、何度も繰り返してきたのである。米ウォールストリートジャーナル紙は、昨年の消費増税を「大失態」と酷評し、過去の二度の過ちをまたも繰り返したと皮肉ったが、返す言葉もない。

「不況になったら減税する」という経済政策の「常識」を取り戻せ

 次の図は、クレディセゾン主任研究員の島倉原氏から提供されたものである。

「消費減税」で政局!? コロナ禍における「消費減税」が経済政策の常識である明白な理由

 この図が明らかにしているのは、第一に、過去の消費増税による消費抑制効果は、リーマン・ショックや東日本大震災による消費抑制効果に匹敵するということである。

 そして第二に、消費増税による消費抑制効果は、リーマン・ショックや東日本大震災による消費抑制効果よりもはるかに長く持続するということである。

 世論や政治家が消費減税を求めると、ポピュリズムだと批判されがちである。しかし、すでに述べたとおり、景気後退期の増税は、MMTに限らず、主流派経済学であっても容認できない政策である。

 実際、ポール・クルーグマンローレンス・サマーズオリヴィエ・ブランシャールジョセフ・スティグリッツといった、ノーベル経済学賞受賞者を含む主流派経済学者の重鎮たちは、いずれも日本の消費増税に反対していた。彼らは、経済政策の「常識」を主張しているだけである。もちろん、日本のポピュリズムとは何の関係もない。

「消費税率引き上げを巡る歴史や苦労を、若手は何も分かっていない」と眉をひそめた自民党幹部がいたというが、その歴史や苦労とは、景気後退期の増税という非常識な政策のために行われ、それがもたらした結果は、消費支出の抑制、すなわち国民の貧困化だったのである。

 そんな過ちの繰り返しの歴史や苦労などは、さっさと改めればよいではないか。そして、「不況になったら減税するものである」という「常識」を取り戻すべきであろう。(評論家・中野剛志)

中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)。