新興国家が覇権国家に挑む際に生じるジレンマを「トゥキディデスの罠」と命名した米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授。同氏らの数年前の研究では、過去500年の覇権争いのうち、実に75%が戦争に至った。特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#9では、米中がそんな悲惨な“運命”を回避する方法などについて聞いた。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
過去500年の覇権争いは75%が戦争に
「トゥキディデスの罠」提唱者が警鐘
――アリソン教授が提唱者である「トゥキディデスの罠※」を紹介した著書『米中戦争前夜』(2017年)の出版後、米国と中国の覇権争いは激化し、新型コロナウイルス感染拡大が始まって以降も両国関係は悪化の一途をたどっています。コロナ禍以降の情勢も踏まえ、両国が軍事衝突に至る可能性は高まったと考えますか。
よい質問です。もしもトゥキディデスが『米中戦争前夜』の出版後の世界情勢を見ていたとしたら、恐らく彼は「どちらがより支配的な勢力の立場を世界に示せるか競い合っており、史上最大規模の覇権国家と新興国家の衝突が加速する方向に進んでいる」と分析するのではないでしょうか。
私は今年1月に中国・上海で開かれた(金融機関の)UBS主催の国際会議に招かれた際、現地の中国人から「『米中戦争前夜』で米中間が激しい争いを繰り広げると予言した人」と紹介されました。そして今、それが現実化しています。トゥキディデスも間違いなく、現在の中国が台頭する新興国家、米国を巨大な覇権国家と位置付けるでしょう。そして、これまで新興国家が覇権国家の地位を脅かしたときは多くの場合、血みどろの戦争に行き着いたわけです。
コロナ禍に対しても、本来は協力して対処すべき共通の関心事であるはずですが、実際はそれぞれがわが道を歩んでいる。中国がウイルスの封じ込め戦略を行う一方、米国はいまだその対処に手を焼いているわけです。
重要なのは、両国間の経済への反応が著しく異なっていること。中国は成長軌道に戻りましたが、米国の実体経済は明らかに傷つき、他の多くの新興国もそうです。現状を総括すれば、われわれが目撃している08年の金融危機以降の物語はいわば“第2章”を迎えており、中国と日米欧などの経済動向が異なる方向に進んでいることは米中間の争いを悪化させる要因となります。