営業利益率は脅威の約50%を誇り、独自のビジネスモデルで急成長を遂げてきたキーエンス。直近の業績こそ踊り場にあるが、成長期待はなお高い。そんな同社の強みは、実はよく知られる圧倒的な営業力だけにあるのではない。特集『最強のテンバガー』(全18回)の#5では、営業力を最大限に発揮するための独自モデルや、徹底した合理主義のカルチャーなどについて、数々のエピソードと共にひもとく。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
足元は踊り場も来期は最高益更新か
謎多き組織の強さの秘密とは?
営業利益率約50%、平均年収1800万円以上、時価総額4位(2月22日時点で約13.8兆円)……。今やこのように圧倒的な実力を備えるグローバル企業にのし上がったのが、工場自動化(ファクトリーオートメーション=FA)に不可欠なセンサー機器を主力とするキーエンスだ。
FA機器へのニーズの高まりもあって特にこの10年ほどの成長ペースは著しく、2020年3月期の売上高は10年前と比べて約4倍の5500億円超、株価は約11倍に急伸。FA関連で同業のオムロンも国内の優良企業と目される存在だが、売り上げの伸びは同1.3倍(20年3月期の売上高6779億円)、株価は同4倍超と、勢いの差が如実に表れているのだ。
そんなキーエンスの業績は、直近こそコロナ禍の影響で踊り場を迎えているものの、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリストは「回復は早く、22年3月期から再び過去最高の営業利益(19年3月期、3178億円)更新の局面に回帰する」との見方を示す。今後の成長期待はまだ大きいというわけだ。
急成長を支えてきた原動力は、ビジネス界でも有名な営業力の高さにある。ただし、実は強みはそれだけではない。詳細は次ページで述べるが、営業力を最大限に生かすための「直販」や自社工場を持たない「ファブレス」、あえて基礎研究は行わないなどの体制が相まって、独自の高収益モデルを築き上げているのだ。
さらに同社には長らく、伝統的な日本企業の価値観とは一線を画すような、独自の文化が根付いてきたことをご存じだろうか。数十年前の創業間もないころから上司と部下で飲むことを強制しない、創業記念日がなければ社宅もない、社内外へ年賀状や贈答品は一切送らない……。実はこうした独特の社内ルールにも、「キーエンス流」の強さの一端が垣間見える。
情報開示に積極的でないこともあり、その企業規模の割に謎多き組織でもあるキーエンス。次ページから、同社内でごく一部の選抜された社員だけが担当する商品企画グループに在籍していた元社員の証言も踏まえ、独自のビジネスモデルや徹底した合理主義に基づく同社の強さの秘密について、数々のエピソードを交えつつ明らかにしていこう。