『週刊ダイヤモンド』3月20日号の第一特集は「儲かる農業2021」です。米価暴落とコロナ禍によって、農家も農協も、強者だけが生き残る大淘汰時代が幕を開けました。そうした中、農協間の格差問題は深刻です。ダイヤモンド編集部の独自試算で、調査対象の2割に相当する96JAが赤字に転落する窮状が明らかになったのです。片や、農業に参入した企業は、絶対王者だったJA全農に対して下克上を狙っています。“乱世”に突入した農業をレポートします。

96JAが赤字に転落する衝撃試算
18億円の共済金詐取など不祥事も続出

 毎年恒例の『週刊ダイヤモンド』の「儲かる農業」特集も今年6回目になるが、今回ほど農業が激変した年はなかった。

 激変の要因は大きく二つある。

 一つ目は米価暴落だ。コメ農家の保護に偏重した農政の結果、米価は、一部相対取引で60キロ1万円を切るまで暴落。価格競争力のない農家や、販売力がない農協が大きな打撃を被ることは避けられない情勢だ。

 二つ目は新型コロナウイルスの感染拡大だ。外食向けの農産物の需要が激減し、農家は売り先の変更を強いられた。外食向け青果卸などの業界で破綻が増える懸念が生じるなど、取引先の選別が農家の重要課題になっている。

 一方、米価暴落とコロナのダブルショックにも関わらず、「農業バブル」といってもいいほどに農業投資は過熱している。

 これまでも、植物工場でレタスを作る米国のプレンティが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから500億円超を調達するなど、海外では「農業は成長産業」だったものの、日本国内は農業バブルから取り残されていた。

 ところが、20年以降に状況は変わった。遅ればせながら、日系企業も農業への巨額投資を積極的に行うようになったのだ。

 世界で初めて植物工場でイチゴの生産・販売に成功し、トヨタ自動車やソニーが出資するファンドから55億円を調達したOihii Farm、約20億円を投じて日本最大級の3000ヘクタールの農場を目指す三井不動産などがその典型だ。

 三井不動産は農業参入にあたり、有力農業法人ワールドファームと合弁会社を設立した。このように企業と農業の「強者同士のタッグ」が今後、急増するとみられる。

 他方で、成長戦略を描けていないのが、農協が組織するJAグループだ。

 農協の経営悪化が止まらない。ダイヤモンド編集部の独自試算で、調査対象である504JAの2割に当たる96JAが、2022年度以降に赤字になることが分かった。

 かねて懸念されていたマイナス金利政策による信用事業(銀行業務)の大幅減益(農協の貯金を運用する農林中央金庫からの利益の分配の削減)が始まったのだ。

 それに加えて、保険契約者の高齢化や死亡による保有契約高の減少により、共済事業も急速に収益が悪化している。

 農協の経営が傾けば、組合員は出資金が戻ってこなかったり、追加の増資を迫られたりといった実害を被ることになる。何より、農協の地盤沈下がもたらす地域経済への悪影響は計り知れない。

ワースト1位は17億円減益のJA香川県
2・3位はJA横浜、JA山口県

 下表は、ダイヤモンド編集部の独自試算の結果、金融事業の減益想定額が大きかった農協を順に並べたものである(試算方法の詳細はこちら

 1JA当たりの金融事業(信用・共済事業)の減益想定額が最も大きかったワースト1位はJA香川県だった。その減益額は年間17億6500万円に上る。

 ワースト2位は神奈川県のJA横浜で16億0100万円、ワースト3位のJA山口県は15億円2000万円の減益が見込まれる。

 JAが経営基盤の弱体化を防ぐには、金融以外の本業、つまり農業関連事業で稼がなければならないのだが、JA横浜など都市部の農協や有力農家から見放された農協には厳しい未来が待ち受けている。

 手っ取り早く稼げる金融事業に人材を集中させ、本業である農業関連事業をおざなりにしてきた農協は、重いツケを払うことになるのだ。

 ついに、農協の大淘汰時代が幕を開けた。読者の皆さんの地域の農協は大減益ショックに耐えられるのか――。地域の農協役員に、経営体力と生き残り策をぜひ問いただしてほしい。

農家1763人から選抜したベスト40
JA支持率ランキング最新版も

 『週刊ダイヤモンド』3月20日号の第一特集は「儲かる農業2021 」です。

 今特集の目玉は、「JA赤字危険度ランキング」だけではありません。

 ダイヤモンド編集部は本特集のために「担い手農家アンケート」を実施。全国1763人の農家から回答を得ました。

「支持する農協」や「期待する農業参入企業」、「理想とする未来の農家」、「役立つ&期待外れだった農業ツール」――。こうしたことを有力農家に評価してもらうことで作成した全ての独自ランキングがキラーコンテンツです。

 とりわけ興味深い結果を得られたのが、今回初めて発表する「農家が決めるプラットフォーマー期待度ランキング」です。

 農産物の生産から販売までを一気通貫で手がける“農業のプラットフォーマー”候補の企業を格付けしたところ、農業界のガリバーであるJA全農に対抗する勢力として、三菱商事やトヨタ自動車、住友商事などが台頭する実態が明らかになりました。農業を牛耳ってきたJAグループが凋落し、盟主の座を企業に奪われようとしているのです。

 また、本特集の人気企画である「レジェンド(大規模)農家ベスト20」、中小でも高収益を上げる「中小キラリ農家ベスト20」も選出しました。独自の技術やビジネスモデルを駆使して圧倒的な収益性を実現している中小キラリ農家の「儲ける秘訣」を洩れなくお届けします。

 そして、これらの高収益農家は、本気で農業事業に取り組む企業の提携先候補でもあります。農家からみても、企業の資金力や人材力を得ることで飛躍的な成長を遂げることができるので、農家と企業の強力タッグが相次いで生まれているのです。

 激動の時代に突入した「農業の今」を切り取った本特集には、農業の明るい未来を描くためのヒントがぎゅっと凝縮されています。
(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)