どうすれば長期投資家に
株を買ってもらえるか

楠木 視聴者からおもしろい質問が多数来ていますね。先程のダノンの話の続きです(第7回参照)。長期的に見るとESGをうたっているのに、短期的に収益が上がっていないから、アクティビストがダノンの社長を辞めさせている。それは悪いことではないというのは、矛盾していないかという質問です。

 株主と一言に言ってもいろいろな方がいます。株主全員の言うことを聞く必要はまったくない。ダノンCEOを辞任させようと動いたのがどんな株主かを知らずに言うので勘違いかもしれませんが、ここで言っている株主というのは、長期投資家のことを指しています。

 短期的な判断を繰り返していく株主とは、今ここで我々が言っている、経営者と薩長同盟ができる株主のことではありません。どの株主と約束を交わすかということをきちんとターゲットしていくことが大切だと思いますが、そのあたりはいかがですか、清水さん。

清水 我々が企業の方と話をしてよく言われるのが、「良い長期投資家を連れてこい」ということです。長期目線の投資家というのは、世界中で奪い合いになっているわけじゃないですか。「なぜ、あなたたちが選ばれる可能性があるんですか?」という議論にはほとんどならなくて、「連れてこい」という上から目線が多いように感じます。本当は両者ともに選び、選ばれる関係のはずなんですが。一方で、短期的な目線の投資家は世の中にかなりの数が存在していて、長期目線の投資家よりも全然多かったりします。

楠木 数は多いですよね。

清水 短期目線の投資家と向き合いたくないのであれば、向き合ってくれる長期目線の投資家をなるべく多く味方につける必要があります。そうすることで初めて、「短期投資家は必要ない」と言えるわけです。長期目線の投資家からは相手にされない、短期目線の投資家は嫌だというのは、さすがに無理があります。

楠木 「株主は選べませんよ」と言う人がいます。その通りです。市場での取引である以上、取引相手は選べません。ただ、競争市場のほう、製品やサービスの市場のほうでいいますと、マーケティングで「ターゲットカスタマー」という考え方がありますよね。こちらがターゲットを決めて、それに合わせて戦略を組み立てていく。これは、戦略の起点として相当重要なところだと思います。ただ、ターゲットを決めても、そのターゲットに合致しない人だって、お金を出せば同じように買えますよね。

 私は、投資家との構え方もそれと同じだと思っています。こちらが先にターゲットを決めて、我々はこういう投資家に対応します、こういう投資家であれば喜んでコラボレーションしますとあらかじめ表明する。一方で、こういう投資家は我々の経営の考え方に合わないので、もちろん株を買ってもかまいませんが、こちらから向き合うことはしませんよと表明しても、全然構わないと思うんです。株主みながハッピーになるということはあり得ないですから。

中神 本当ですね。

楠木 「ターゲット株主」という考え方がもっと広まればいいのではないかと思います。

清水 そうですね。私も投資家を選別する覚悟を持ちましょうということを、経営者の方によくお伝えしています。長期目線の厳選投資家さんを味方につけているからこそ、短期的な目線の株主は必要とないと言えるようになりますから。やはりそこは規律が必要なんだろうなと思うところです。