経営者が投資家と
「薩長同盟」を組むための3施策

楠木 中神さんに、株主が長期投資家という前提で、薩長同盟の組み方、経営者との組み方の具体的なアドバイスや、理想的な例などがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

中神 いくつかパターンがあると思います。私はコンサルティング業界から投資業界に来たのですが、驚いたことがいくつかあります。投資業界の人は、報酬にものすごくこだわる。ものすごい技巧を凝らす。もちろん根拠となるロジックはしっかりしていますが。

楠木 ええ。

中神 ものすごい技術もちゃんと凝らされていて。

楠木 投資業界の人ですね。

中神 投資業界の人。金融業界の人です。報酬にかなりこだわります。自分の貢献度が正しく評価されているのか、時間軸と正しく結び付いているのかといったことを、ものすごく綿密に設計しているわけです。

楠木 今、我々は報酬にこだわる雰囲気のする空間に身を置いていますよね。

清水 今日の場所はそういうところですね(笑)。

中神 「うん?」と思うこともありますが、それは一定の合理性やロジック、科学、技術に基づいています。これは実は企業経営にも応用できると思っています。

楠木 なるほど。

中神 経営者はどう報われるべきでしょうか。短期の貢献だけで報われてはいけませんし、長期で報われなければなりません。といっても、短期の貢献も反映されなければならない。ステークホルダーからも評価されなければならない。

 そこで例えば、報酬委員会に投資家を呼んだり、もしくは委員会に入ったりしてもらう。経営者の報酬はどうあるべきかを、投資家の経験と実績に基づいて設計していくという方法も1つあると思うんです。

楠木 ええ。

中神 あとは、実際に親しい所から、戦略投資委員会をつくらないかとお願いされたこともあります。経営者は、投資のプロではない。もちろん設備投資はプロであるかもしれませんが、例えばM&Aや自社株買いはある種の投資ですが、こういった投資に関する知見が足りていない。

 そういったことを日々仕事にしているのは、投資家です。ですから、戦略投資委員会を作るので、そこのメンバーに入ってくれませんかということですね。投資家は「この会社は買っていいですか、値段はいくらなら正しいですか」という判断を毎日しているようなものです。会社の一部である株を買っているわけですから。その技術を経営に取り込めばいいのではないかというのが、2番目の施策ですね。

楠木 ええ。

中神 あと最後は、こういうことを日々議論しているのは取締役会なのだから、投資家に直接取締役会に乗ってもらう。実際に「どうですか」という話もいただいたりもしています。

楠木 つまり、投資家に使われるのではなく、こっちで投資家を使っていく、株主を働かせるという姿勢が重要だということですね。

中神 はい。