「みなで豊かになる」第一歩は
投資家を取締役会に呼び込むこと
楠木 人間は全方位的に全部ができるということはありません。事業経営者がその実業の設備投資であるとか、業界のこと、顧客のことは、当然外にいる投資家よりよく知っていると思います。
中神 当たり前ですよね。
楠木 当然、そういったことに対して、普段から注意を振り向けているがゆえに、どうしても注意が薄くなるところがあるでしょう。例えば資金調達の方法などです。この点について、非常にナイーブな経営者が日本の製造業とかに結構いると思っています。
中神 そうですね。
楠木 投資家から見ると、ケースバイケースを超えて、明らかな悪手を意外とナイーブに実行しているときがある。資金調達のような知識は、投資家と組めば、ある程度は補完できますね。
中神 はい。
楠木 そもそも、男同士でどうすれば女性にモテるかという話をしても仕方がありません。どうすればもてるんですかと女の人に聞いたほうが早い。だから、普段から投資家の目線で企業を見ている人が取締役の中に入るのは、投資家視点の設定という意味でも非常に意義が大きい。しかも、そんなにコストがかかりません。
中神 そうですね。
楠木 今からゴールドマン・サックスの大部隊を雇ってプロジェクトを興していこうという話ではありませんので。普段から取締役会に投資家が入っているのは、非常にトクな話だと思います。
中神 そうなんですよね。とにかく、大目的はみなで豊かになることです。そのためにはどうすればいいかというと、もちろん、破格の給料や賞与を与えることもできますが、もう1つ大事なことがありますよね。株式を使えば、みなで豊かになれるのではないですか。といっても、そのためには株価が上がらないと困るわけですが。どうしたら株価が上がるかということだけを必死に考えているのは投資家ですから、その知恵を借りたほうが手っ取り早いのではないでしょうか。
清水 ESG経営といっても、最終的には企業価値を上げなければなりません。そのようなインセンティブをどう付けるかとなると、株を持ってもらうのが非常に有効だと思います。
私は、ある程度の役職になると強制的に自社株を持たされる報酬制度の会社で働いています。株を持たされると、まず1日数回は弊社の株価をチェックします。今の株価が高いのか安いのかを、必死で判断しようとします。
同業他社、例えばモルガン・スタンレーさんとの時価総額の違いも気になりまして、今はモルガン・スタンレーさんの時価総額のほうが上なんです。これはなぜかと思うわけです。もしかして資本コストの違いなのかなとか。おそらく弊社のボラティリティの高い収益構造が株主から評価されてないのかもしれない、などと考えたりします。
これはある意味、経営者と同じモノの考え方なんだと思います。すべての従業員、もしくはある程度の役職以上の人間が経営者感覚を持って長期目線でB/S、P/Lを考えていくうえでは、自社株を持ってもらうのが非常に重要な仕掛けの第一歩なのではないかと思います。