総予測2022#新興国Photo:Anadolu Agency/gettyimages

変異株の出現、金融政策の逆回転による資金流出、物価高、左派ドミノ――。特集『総予測2022』の本稿では、ワクチン接種の進展による景気回復期待が強い一方で、景気の下押し要因も多い新興国経済の22年を予測する。インフレ高進により、不景気であっても金融引き締めを余儀なくされるという悪循環に陥る可能性もあり、その場合は先進国経済への影響も免れない。(第一生命経済研究所 経済調査部主席エコノミスト 西濵 徹)

「週刊ダイヤモンド」2021年12月25日・2022年1月1日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

コロナの感染収束は追い風だが
22年の成長率は例年程度か

 2021年の世界経済は前年同様に新型コロナウイルスの感染動向に揺さぶられた。22年も新型コロナの行方が左右する状況が続くだろう。

 欧米など主要国でワクチン接種の進展が経済活動を後押しする中、新興国においてもワクチン接種が進展。景気回復の後押しが期待できる。しかし、新興国の中でもワクチン接種が遅れているアフリカで新たな変異株(オミクロン株)が発見されたことは、ワクチンの偏在が新たな変異株を生む土壌となる可能性を示唆している。

 また、足元では先進国を中心にブースター接種(追加接種)が行われるなど、世界的なワクチン需給の逼迫が予想されている。アフリカをはじめワクチン接種が遅れる国々で接種が大きく進むには時間を要すると見込まれる。今後も変異株の登場が世界経済のリスク要因となる可能性はくすぶり、その影響を注視する必要がある。

 他方、世界経済で欧米など主要国中心に回復の動きが続いていることは、経済構造面で財輸出に対する依存度が相対的に高い新興国にとって景気回復の追い風になると期待される。さらに、ワクチン接種や医薬品の開発など感染収束に向けた動きが一段と前進すれば、世界的に国境を跨いだ人の移動の活発化が見込まれる。

 そうなれば、世界的な人の移動の萎縮により深刻な打撃を受けた、経済に占める観光関連産業の割合が高い新興国を取り巻く状況が大きく好転することも期待される。当たり前ではあるが、新型コロナの感染収束の進展は、多くの新興国経済にとっても景気回復が促される環境につながるだろう。

 ただし、経済成長率の動きを見ると、新型コロナ禍の影響により20年の前半に大きく下振れした反動で21年前半は大幅に上振れしており、21年は通年でも久々の高い伸びとなりやすい環境になっていた。一方、22年はその反動で下振れしやすく、例年並みの成長率にとどまることが避けられない。期待値のハードルを上げ過ぎることに注意する必要があろう。

 また、それ以外にも22年の新興国経済には資金流出による通貨安圧力やインフレ高進、政治体制の変化など様々なリスクがある。悪循環に陥ると、先進国経済への影響も免れない。次ページで詳しく解説していこう。