コロナ禍で大打撃を受けた外食産業だが、3月21日に「まん延防止等重点措置」が解除されて以降、需要が急拡大している。その追い風に乗る、カギを握るのが“ヒト”だ。人が採りにくくなるなか、採用したスタッフの育成と定着が課題になる。ファミリーレストランチェーンのすかいらーくの創業に携わり、外食業界のレジェンドの横川竟氏(高倉町珈琲会長)と、日本マクドナルドで「ハンバーガー大学」の学長を務めた有本均氏(ホスピタリティ&グローイング・ジャパン会長)が経営者の役割と人財育成術を語った。(聞き手・構成・ダイヤモンド社・大坪稚子/撮影・大崎えりや)
危機のときこそ経営者はメッセージを伝えなければならない
――新型コロナウイルス禍で、外食産業は大打撃を受けました。日本フードサービス協会によれば、2021年の「パブレストラン/居酒屋」の売上げは、コロナ以前の19年と比べて72.8%、「ファミリーレストラン」では29.7%、落ち込んだといいます。横川さんはこの状況をどう受け止めていましたか。また、経営者としての役割についてはどのように考えていましたか。
横川竟(以下、横川) ファストフードなど好調だった業態はあるにせよ。外食産業にとって、これほどの危機は過去に経験したことがありません。それはもうたいへんですよ。ただ、コロナのせいで外食がダメになったというよりは、価格競争中心で、お客様が求めるメニューやサービスとにずれが生じていたなど、もともと多くの課題を抱えていたところに、コロナが追い打ちをかけた、というのが実情だと思います。
経営者の役割は、会社をつぶさないことと、そういう経営者の強いメッセージや思いをスタッフに伝えることです。それがなければ、スタッフは離れていってしまいます。外食の場合は、スタッフは働いてくれる仲間であると同時に、お客様でもあるのです。
有本均(以下、有本) まさに、おっしゃるとおりですね。
――東京に最初に緊急事態宣言が出たのが20年4月7日でしたが、横川さんはその11日後に「高倉町珈琲」の新店をオープンさせました。休業する店すらあるなか、どのように考えたのでしょうか。
横川 もちろん、悩みましたが、大事なのは働く人の気持ちです。まず、店長やスタッフの意見を聞きました。「感染するのが怖いから働きたくない」と言われたら、出店は断念するつもりでした。ところが、だれも「閉めよう」とは言わない。新店のオープンに向けて、アルバイトやパートを採用し、教育をし、準備してきたのです。スタッフのやる気をそいではいけない。私も腹をくくりました。
有本 思い切った決断だったのですね。
横川 実のところ、私自身はできると確信していました。すかいらーくでセントラルキッチンをつくったときに、細菌学の専門家を呼んで基礎から学びました。浮遊菌落下対策まで勉強したんですよ。また、「高倉町珈琲」は居心地を重視して席のスペースを大きめにとっているので、ソーシャル・ディスタンス対応もしやすい。そこで、対策を適切に行いさえすれば、過度に恐れることはないと判断していたのです。
――実際、その新店はどうだったのですか。
横川 店を開けたって時短営業ですし、利益なんて出ないですよ。それでも、お客様とスタッフの安全が確保できるのであれば、スタッフのやる気に応えるべきなのです。店で働けるということ自体がスタッフにとっては安心できることですし、会社に対する信頼にもつながります。だからいったん店を開けると決めた以上は、踏ん張らないといけないのです。