首相の岸田文雄が決断した元首相、安倍晋三の「国葬」が9月27日に迫ってきた。しかし、安倍の急死とともに表面化した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍や自民党議員とのただならぬ関係によって、国葬そのものに反対する国民世論が厳しさを増す。岸田がもくろんだ安倍を支持した保守層へのアピールと、弔問外交による安倍の「外交遺産」の継承のいずれの成果にも疑問符が付き始めた。
とりわけ国葬を契機に、国境を接するロシアと中国という二つの大国との外交が進展する可能性もほとんど消えたと言っていい。ロシアに関しては安倍と27回も首脳会談を行った大統領のプーチンも早々に「国葬に出席する予定はない」(ぺスコフ・ロシア大統領報道官)と表明した。むしろロシア側は、ウクライナへの軍事侵攻に対する日本政府の経済制裁に反発、ロシア極東サハリンでの石油・天然ガス開発事業(サハリン2)について、大統領令でロシアが新たに設立した運営会社に引き継ぐよう命じた。
日本の液化天然ガス(LNG)供給の約9%を担うサハリン2を人質に取られた格好だ。これを受けて事業に参画していた三井物産と三菱商事は、安定供給の維持を最優先に位置付ける日本政府の意向を尊重して新会社への参画を決めた。ただし、日本政府内にも異論があった。
「戦争という有事に絡んで私企業に社会的責任を負わせることには無理がある」(元政府高官)
その背景には狡猾なロシア外交に対する不信感がある。