かんぽ生命保険による不適切販売の引責で辞任した横山邦男・日本郵便前社長の復帰を待ち望む声が、日本郵政グループ関係者の間で強まっている。横山氏は、2009年のかんぽの宿問題でも責任を問われ、西川善文・日本郵政社長(当時)の退任とともに古巣の三井住友銀行に舞い戻った過去を持つ。こうしたスネに傷持つ人物の「再・再登板」が取り沙汰されること自体が、経営統治の不全を物語っている。特集『郵政消滅』(全15回)の#1では、日本郵政の多頭権力支配の闇に迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
ラストバンカー西川氏の最側近が
守旧派を味方にして「救世主」に変貌
「郵便局の現場を知り、菅義偉首相とのつながりもある横山しか、日本郵政の難局を打開できないのではないか」。ある全国郵便局長会会長経験者が声を潜めていう。
「横山」とは、かんぽ生命が顧客に不利益となる不適切な販売を行っていた問題で、保険販売を請け負った日本郵便のトップとして責任を取って辞任した横山邦男・日本郵便前社長のことだ。
引責辞任した経営者が復帰するという、常識的にはあり得ない人事に希望を託さざるを得ないところに、日本郵政グループの窮状が表れている。
窮状の正体は、一言でいえば人材の枯渇である。その背景には、利害の異なるプレーヤーによる“多頭権力支配”の構図がある。日本郵政グループには、経営に影響力を持つ利害関係者があまりにも多く存在するのだ。
その最たるものが、全国郵便局長会(全特。旧全国特定郵便局長会)だろう。全特は日本郵便の社員でありながら日本郵政の本社人事に介入するほどの政治力を持つ。
また、日本郵政グループの要所ポストに居座る旧郵政省キャリアや、かつての勢いはなくなったとはいえ経営が無視できない日本郵政グループ労働組合(JP労組)もまた、厄介な存在だ。
経営が何か大きな決断をするときには、これらの利害の異なるプレーヤーに対する「事前の根回し」なくして物事が前に進むことはない。全員が納得するような合意形成を図るのは容易ではないのだ。
幸運にも、合意形成に持ち込めたとしても、政府(総務省や金融庁)や与党の了承を得られなければ軌道修正は避けられない。まして政権交代など起きようものなら、全てのお膳立てが無駄となり、ちゃぶ台返しにあう。
「日本郵政グループにはビジョンや長期戦略がない」(日本郵便OB)と言われて久しい。だが、そうした大方針を掲げる経営者がいっこうに現れないのも、それなりの理由があるのだ。
横山氏はこうした異形の組織に社外の民間企業から飛び込み、批判を浴びながらも、大物郵便局長らの信頼を得ていった。そして、驚くべきことに、引責辞任した今も経営再建の「最後の切り札」として名前が挙がっているのである。
横山氏とはいったい何者なのか。