慶應義塾の「最高幹部」評議員メンバーだった電通元首脳が今期をもって退任する。過去には、不正融資問題が起きたスルガ銀行の首脳が評議員選挙で「落選」する一方、談合事件の発覚後も留任する経営者もいる。10回超にわたり公開予定の特集『最強学閥「慶應三田会」 人脈・金・序列』の#5では、「不祥事」企業トップの慶應流のみそぎについて明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
五輪汚職の高橋被告の慶應人脈
電通元首脳が評議員を退任へ
「ワールドカップなどのスポーツイベントに関わる仕事柄、国内外のスポーツ選手の方々とゴルフをプレーする機会に恵まれている」
今から20年前に発行された「週刊ダイヤモンド」2002年5月11日号で、そう語るのは当時の電通の役員だ。独仏の伝説的なサッカー選手とのゴルフを通じた、華やかな交流秘話が披露されている。
その人とは、元電通専務で東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で東京地検特捜部に逮捕・起訴された高橋治之被告である。
高橋被告は幼稚舎から慶應義塾一筋である。「週刊ダイヤモンド」21年7月3日号の特集「ゴルフ復活!」では、五輪と高橋被告の慶應人脈をつなぐ、いぶかしいエピソードを明かしている。
それは五輪のゴルフの競技会場の選定を巡るごたごたである。当初、会場予定地は別のゴルフ場だったが、名門ゴルフ倶楽部に「秘密裏」に変更されたというのだ。
関与したとされるのが高橋被告らだ。高橋治之氏に加え、慶應義塾高校出身で日本ゴルフ協会幹部の竹田恒正氏、永田圭司氏、戸張捷氏の3人が、同窓会会報誌の「ゴルフ競技会場決定の舞台裏」と銘打った対談で、その内幕を披露している。
今回も、高橋被告の慶應三田会つながりやゴルフつながりといった幅広い人脈が汚職事件の背景にあるとも指摘され、事件の収束の兆しも見えてこない。
その中で、慶應関係者が「事件と関係あるのではないか」と指摘するのが、高橋被告が絡む汚職事件が、ある評議員の進退に影響を及ぼした可能性だ。
ある評議員とは、高橋被告の古巣である電通の相談役の高嶋達佳氏である。慶應の評議員の「定年」である85歳にはまだ届いてはいないが、続投を見送った。
次ページでは、高嶋氏の退任の背景を探るとともに、過去の「不祥事」企業のトップが評議員としてどのように身を処したかの具体例を明らかにしていく。