内向型と外向型の生き方や人生は、どのように異なるのか?「静かな人」の自己肯定感を爆上がりさせる、と絶大な支持を受けている書籍『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』について、担当編集者の三浦岳さん(ダイヤモンド社)に聞いていきます。(書籍オンライン編集部)
「静かな人」と「外向型」ではここまで人生が変わる
――書籍『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』は発売から約4ヵ月で、発行部数は早くも6刷11万部にのぼるベストセラーです。翻訳書を得意とする三浦さんの狙い通りでしょうが、この本をぜひ出したいと思われた理由やきっかけを教えてください。
三浦岳さん(以下、三浦) この本はもともと台湾のベストセラーなのですが、それが「アメリカで翻訳が決まった」と版権エージェンシーのタトル・モリエイジェンシーさんからうかがいました。
アメリカってあまりアジア圏の本の翻訳は出ないですし、本書のテーマである「内向型」についての類書もアメリカには多くあります。それにもかかわらず翻訳されるのはすごいことだし、どんな内容なのかな、と興味を持ちました。
そこで、原稿を読ませていただいたんです。すると、私の拙い英語力でもとても面白かった。
まず思ったのは、本書で言う静かな人、つまり「内向型の人」と、明るく元気に見える社交的なタイプの多い「外向型の人」とでは、ここまで生き方に違いが出るのか、ということでした。下記の図表は、本書に収録されているものですが、その差を端的に説明しています(外部配信先サイトでは画像が表示されないことがあります。その際は「ダイヤモンド・オンライン」でお読みください)。
――三浦さん自身も、この表の「内向型」に当てはまるような……。口数は少ないけど、ポロっと大事なことや面白いことを言って、存在感がすごくあるタイプですよね。
三浦 ……わかりませんが(笑)、内向型タイプだとは思います。
この表を見ると、たとえば疲れたとき、外向型の人は「人と喋ったりして元気を取り戻せる」。一方で内向型の人は「ひとりになることで元気を取り戻せる」。自分は明らかに後者です。
ほかにも、話すときに、外向型の人は「思ったことをすぐ口にする」。一方、内向型の人は「用心深く、慎重に言葉を選ぶ」。
また、外向型の人は「飽きっぽく、外的刺激が必要」で、内向型の人は「敏感なので、強い刺激はストレスになる」……などなど。
これを読むと、内向型と外向型は、同じ世界を共有していても、全然違う次元に住んでいて、全然違う人生を送ることになるんだなと思いました。
――同じ世界でも違う次元に住んでいる、という解釈は面白いですね。たしかにそうかも。
歩みは違えど「苦労があること」自体は同じ
書籍編集者(ダイヤモンド社書籍編集局第一編集部編集長)
出版社2社を経て、2014年にダイヤモンド社入社。『Invent & Wander』『1兆ドルコーチ』『父が娘に語る美しく、深く、とんでもなくわかりやすい経済の話。』『シリコンバレー式超ライフハック』『考える術』などを担当。
三浦 ただ本書では、この違いは「優劣」ではなく、フラットな意味での「違い」なんだと強調されています。こうしたまったく違う感性をもって生きていると、もちろん人生に大きな違いは出ますが、必ずしも、内向型の人の人生に一方的にデメリットが多いわけではなく、外向型の人にとって難しいことも多々あるようです。
本書では、著者は外向型の人に直接こう言われたと書いています。
「あまりに外向性が強いのも、人付き合いや仕事の上で妨げになる。自分を変える努力をしなきゃならないのは、君のような内向型だけじゃないよ」
これを受けて著者は、「内向型と外向型は違ってはいるけれど、世の中でうまくやっていくために苦労しているというのは同じなんだ」と気づかされたと言います。
――そうか。外向型の人たちには外向型なりの苦労があるわけですよね。
超内向型の著者が、超外向型のアメリカで大奮闘
三浦 さらにこの本が面白いのは、著者がみずからの実体験をストーリーのように語っていくことです。
著者は、どちらかというと穏やかで内向的なカルチャーの台湾から、おそらく世界一外向的なカルチャーの国の1つであるアメリカに出てきて、大学や仕事の世界を体験して、めちゃくちゃ翻弄されるんです。
コーヒーを買っておつりが間違っていても言い出せず、ゴミ出しで同じマンションの人に出くわす程度のことすら恐怖で、エレベーターでも誰かと一緒になりたくないと急いで「閉じる」ボタンを押してしまう……というほど内向的な著者が、アメリカの超フレンドリーで前のめりな人々や、仕事の猛烈な波にぐるぐると揉まれながら、必死に戦略を築いていく。
その様子が、内向型の私としてはとてもおかしかったり身につまされたり、読んでいて本当に楽しめました。ただのノウハウではなく、読み物として面白いことで、英語圏の高い翻訳の壁を破ったのかなと思いました。
「オダギリジョーにたとえてしまってすみません」
――一般的に英語圏の翻訳書が多いので、台湾の本の翻訳を手掛けられるのは珍しいのでは?
三浦 そうですね。台湾からの翻訳書は一般に多くないと思いますし、私としても編集するのは初めてでした。最近はオードリー・タンさん(注:弱冠35歳で台湾のデジタル担当相を務めるなどして話題に)関連で台湾の本がたくさん出ていますが、それ以外ではかなり珍しいのではないでしょうか。
それにしても、翻訳書ながら、日本人著者の本を読んでいるくらい違和感がなかったので、日本と台湾って、価値観や考え方に相当通じる部分があるのかなと思いました。翻訳では、神崎朗子さんの流れるような訳文によって、そのスムースさにさらに磨きがかかっています。
――三浦さんは、原著者のジル・チャンさんともやりとりされたとか。
三浦 はい。発売後に販促のことでやりとりをしていても、ジルさんとは本当にコミュニケーションが取りやすいです。とても腰が低くて親切で、こちらからお願いごとをしても、むしろ「いろいろとアレンジしてくださって、本当にありがとうございます」と言ってくれるほどです。
一度などは、台湾の新聞のコラムで、「あなたのことをオダギリジョーにたとえてしまったが、失礼じゃなかったか」と問い合わせてくれました。
――オダギリジョー!?(笑)
三浦 ドラマ『重版出来』の編集者役のオダギリジョーのようなすごい編集者だ! みたいな感じで紹介してくださっていて、震えました(笑)。編集者たるもの、著者に対してはつねにより丁寧に謙虚に接したいとは思うのですが、ジルさんに対しては無理でもしょうがないかな……とあきらめました。
「静かさはクール」というコンセプト
――スーザン・ケイン著『QUIET 内向型人間の時代』など、「内向型」という言葉はよく聞くので、メインタイトルの「静かな人」という平易な言葉はすごく新鮮に感じました。「静かな人」に、マッチョな「戦略書」がつく意外性。このタイトルはどのように決まったのですか?
三浦 本書は、台湾での原題が『安静是種超能力』で、英題が『Quiet is A Superpower』でした。どちらも「静かさは超能力」という意味になるかと思います。
この原題は「内向型でも大丈夫」というややネガティブ寄りのメッセージではなく、むしろ「内向型には特殊能力がある」「静かさはクールだ」というような、内向型をポジティブに再定義するようなコンセプトに感じて、できるだけそのニュアンスをそのまま生かしたいと思いました。
ただ、これを直訳して、スピリチュアル系というか、本当に「超能力」の本に思われたら困るなと。
――まさかですが、ありえる(笑)。
三浦 それで、直訳ではなく、しかしこの雰囲気を損なわない日本語タイトルとはどういうものだろうといろいろと試行錯誤していきました。結果、こういう形になり、著者にも理解していただきました。(後編に続く)