ANAホールディングスの36歳の社員が、新たな空の交通手段になると期待される「空飛ぶタクシー」の事業化に挑んでいる。創造的ではあるけれど、現時点で主力でもなければ稼いでもいない事業。そこに携わるというのは、社内でどんな立ち位置になるのか。特集『ANA・JAL 黒字回復後の修羅』(全13回)の#7では、航空会社のチャレンジャーを追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
タクシー料金並みの価格にこだわり
成田空港と都心もつないでいく
ANAホールディングス(HD)のデジタル・デザイン・ラボでエアモビリティ事業化プロジェクトディレクターを務める保理江裕己氏(36歳)が、デジタル・デザイン・ラボに参加したのは2016年のこと。同ラボが立ち上がったタイミングで部員の公募があり、勢いよく手を挙げた。
破壊的なイノベーションで新しい事業領域をつくるというラボのミッションに心が震えた。早速、小型無人機のドローンや「空飛ぶクルマ」などを提案した。
今はそのうちの一つ、空飛ぶクルマを実用化するプロジェクトを任されている。
空飛ぶクルマは垂直離着陸する電動航空機で、世界中で開発競争が繰り広げられている。ANAHDはその先頭集団にいる米ジョビー・アビエーションと業務提携を結んだ。空飛ぶクルマを使ったエアタクシー、つまりは「空飛ぶタクシー」という都市型の航空交通を事業化するのである。
地上を走るタクシーよりも2地点をはるかに短時間でつなぐ新たな交通手段。保理江氏はこれを、高額なサービスではなく、今のタクシー料金並みに一般に手が届く価格で提供することにこだわる。そのためには都市部で高頻度に運航するかたちにする必要がある。
国を含め関係者たちは空飛ぶクルマを2025年開催の「大阪・関西万博」のタイミングで商業運航することを目指している。万博を起点に関西圏でまず事業化するのが目標であり、その次が東京圏。成田など空港と都心部をつなぐ運航は、既存の航空サービスとのシナジーも生まれる。
目下、空飛ぶタクシーに魂を注ぐ保理江氏。創造的ではあるけれど、現時点で主力でもなければまだ稼いでもいない“夢の事業”を追うことは、ANAHDという航空会社の中でキャリアアップになるのか。社内でどんな立ち位置なのか。