「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。
本記事では、なんと800ページ超のボリュームを誇る同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。

ゴールドマンとANAパイロット、同じ年収2000万円でも価値が高いのはどっち?Photo: Adobe Stock

単年の年収水準は重要ではない

 日本は、大企業と公務員が終身雇用である一方、業績が不安定な中小企業はそうでもなく、外資は業績がよくても「PIP」と呼ばれる業績改善計画を個人に課して、成果がでなければ実質的な解雇に追い込む。よって、ある年の年収は、突然クビになってゼロになるかもしれず、持続しない。

 つまり、同じ年収2000万円でも、ゴールドマンサックスの証券アナリストとANAのパイロットでは、まったくその経済価値が違う。したがって、「平均勤続年数」の長短によって、分けて考える必要がある。縦軸に35歳時点での手取り年収を、横軸に平均勤続年数をとって、マッピングしたものが次の図である。35歳としたのは、大卒で社会人になって10年超がたち、「一人前の職業人」となっている時期だからだ。

 各企業を配置してみて、真ん中あたりになったのが、「手取り600万円、平均10年」である。これが日本で名の知られた企業における、だいたいの平均的な姿と考えてよい。

 この水準は、筆者のサラリーマン時代の実感としては、都内の城南地区(目黒や品川)で一人暮しの賃貸(1K)で車を保有しローンや駐車場代を払うと、手取り600万(ボーナス含め月で均して50万)ないと貯蓄に回す余裕はなかったので、首都圏で十分な生活水準を保てる「中の上」くらい、と思ってよいだろう。

 この水準は地方だとぜんぜん違って、たとえば筆者が借りている那覇市の物件や駐車場費・スーパーでの食品の値段を考えると、家賃も食費も、東京より3割強は安い。だからトヨタ(豊田市)や京セラ(京都市)は、本社勤務なら、よい生活ができるわけである。

企業の「開示情報」はアテにならない

 平均勤続年数と額面の平均年間給与は、上場企業については有価証券報告書に開示義務がある。だが最近は持株会社だけを上場させ、肝心な本体社員の情報を隠ぺいする流れがあり、会社選びで重要な指標にもかかわらず、どんどん実態がわからなくなっている。この10年でも、リクルート、野村、ANA、ソニーなど、持株会社化した結果、持株会社に所属する社員についてのみ平均勤続年数と平均年間給与が開示され、社員の大半が在籍する事業会社のほうの実態が、非開示になってしまった

 有報以外では、公式のサステナビリティ報告書、『リクナビ』『就職四季報』等で発表している場合も一部にはあるが、全社をごちゃまぜにしているために実態を表していないものが多く、取材内容と一致するもののみ、数字を載せた。まったく採用区分が異なる複数の職種の平均には、なんの意味もないからだ。

 たとえば旧安田財閥系の損保ジャパンは、平均勤続15年、平均年間給与626万円(44.1歳)と開示しているが、実際に取材すると、総合職は30歳1000万円、最速35歳で1200万円に到達し、40代でほぼ全員が最低でも1300万円以上に昇給するという。35歳なら額面1100~1200万円、である。

 では、なぜ開示情報では半額になるのかというと、人数の多い一般職(ほぼ全員が事務を担当する女性)の給料が半分以下だから、そして、勤続年数も、一般職は結婚・出産を機に退職する女性が多いからだ。賃金も勤続年数も、公式発表がなく、闇の中である。これは生保・損保・証券・銀行に共通する構造で、「性別格差」の原因にもなっている。企業としては、差別的な運用がバレることを恐れて隠しているのである。

 ANAが持株会社化する前の最後にあたる2012年3月期は、パイロットが1989万円で21.5年(45.1歳)。CAが472万円で6.2年(32.2歳)。総合職が717万円で16.1年(42.4歳)、と開示されていた。その後、年収は完全に非開示となり、全職種を一緒くたにして男女別に平均勤続年数だけ開示(2021年=男18.8歳、女9.4歳)するようになり、持株会社所属の200人について495万円と勤続3.1年(45歳)という数字だけが開示されている。ほとんどすべて、闇の中となった。

いつまでも給料が開示されず、
まともに転職が進まない日本の状況

 こんな情報に、なんの意味があるのだろうか? これを上場企業に許していたら人材流動化は進まない。転職を考える際に必要となる、最低限の待遇情報が隠ぺいされているのでは、検討するのも骨が折れる。

 なぜ金融庁は、こうした公共性の高い情報を、どんどん隠ぺいしていくのか。会社に聞けば、もちろん「開示しておりません」で終わり。だから筆者は会社を取材しないで、良心的で協力的な社員への直接取材を続けている。それも、正確を期すために、社内資料や給与明細、源泉徴収票といった資料を依頼し、裏付けをとっている。

 このマップは、明記していないものは総合職であり、位置は筆者の取材結果に基づく。ヘッドハンターや人材紹介会社に取材して確認をとったものもある。元の年収や経歴を把握し、紹介先の年収も正確に把握しているのがヘッドハンターであり、彼らは企業がクローズドで開催する人材募集の説明会(ヘッドハンター向け)にも出席し、採用条件など詳しい話を聞いている。

(本記事は『「いい会社」はどこにある?──自分だけの「最高の職場」が見つかる9つの視点』の本文を抜粋して、再編集を加えたものです)